コラム

セブン「買収提案」の意味は重い...日本企業の「バーゲンセール」が始まり、外資の草刈り場になる未来

2024年09月05日(木)17時11分
セブン&アイへの買収提案が示す日本企業の問題点

TORU HANAI-REUTERS

<カナダ企業がセブン&アイ・ホールディングスに買収提案。日本企業はグローバルに見て、異常な「安値」となっているのが現実だ>

セブン&アイ・ホールディングスが、カナダの小売大手から買収提案を受けた。セブンをはじめ日本企業の多くは経営効率が悪く市場からの評価が低い。こうしたところに歴史的な円安が加わり、日本企業はグローバルに見て、異常な安値となっている。

同社は日本の生活インフラとも呼べる存在だが、こうした企業が買収のターゲットになった意味は重い。このままの状況を続けた場合、日本市場は外資の草刈り場となる可能性がある。


セブンを買収しようと試みているのは、カナダの小売り大手アリマンタシオン・クシュタールである。セブンは社外取締役で作る特別委員会を設置し、内容について吟味している状況だ。アリマンタシオンは、日本ではあまりなじみがない企業だが、北米でコンビニ事業などを展開しており、北米市場について言えば、セブンに次いでシェア2位となっている。

セブンの時価総額はアリマンタシオンの半分しかなかった

シェア2位の企業が1位の企業を買収できるのは、グローバルに見てセブンの株価が割安だからである。セブンの直近の営業収益は11兆4717億円、アリマンタシオンは692億6350万ドル(約10兆円)とほぼ同規模である。だがセブンの時価総額(買収提案前)は約4兆5000億円とアリマンタシオンの半分程度しかない。

セブンに対しては、投資家がたびたび経営効率の改善を要請してきた。2015年にはアクティビスト(モノ言う株主)のサード・ポイントが、22年には同じくアクティビストのバリューアクト・キャピタルが部門売却を求めた。だがセブン側の動きは鈍く、23年9月になってようやくそごう・西武の売却を実施し、イトーヨーカ堂については、株式上場を検討するにとどまっている。

セブンに限らず、いわゆる昭和型の経営を続け、外部からの提案に耳を貸さない日本企業は多い。非上場企業として活動するのであれば何ら問題はないが、資本市場に株式を上場し、世界の投資家に対して「株を買ってほしい」と公言する以上、こうした内と外のダブルスタンダードは企業価値の減少に直結する。

ここ10年、世界の投資家が運用の参考にする全世界株価指数から、日本企業が大量に除外される動きが広がっており、日本企業は諸外国から見て有力な投資先ではなくなっている。こうした状況が続くと、日本に入ってくるのは、丸ごと買収を狙うような投機的資金ばかりということになってしまう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:激戦州アリゾナ、銅鉱山開発巡る対立が大統

ワールド

トランプ氏の近くで発砲、本人無事 FBI「暗殺未遂

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週ぶり増加=ベーカー

ワールド

ベネズエラ、米国人ら6人拘束 政府転覆計画に関与と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウィリアムとヘンリーの間に「信頼はない」...近い将来の「和解は考えられない」と伝記作家が断言
  • 2
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライナ軍MANPADSの餌食になる瞬間の映像を公開
  • 3
    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺到...男性なら「笑い」になる、反応の違いは差別か?
  • 4
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 5
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 6
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 7
    広報戦略ミス?...霞んでしまったメーガン妃とヘンリ…
  • 8
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座…
  • 9
    バルト三国で、急速に強まるロシアの「侵攻」への警…
  • 10
    「残飯漁ってる」実家を出たマドンナ息子が訴える「…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 3
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 4
    アメリカの住宅がどんどん小さくなる謎
  • 5
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 6
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 7
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 8
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライ…
  • 9
    キャサリン妃、化学療法終了も「まだ完全復帰はない…
  • 10
    33店舗が閉店、100店舗を割るヨーカドーの真相...い…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 6
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 7
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 8
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 9
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 10
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story