コラム

LINEでも無理だった...LINE証券「撤退」が改めて示した、「若者の投資」ビジネスが儲からない理由

2023年06月29日(木)20時00分
スマホ操作

LIUBOMYR VORONA/ISTOCK

<LINEなら若者を投資に呼び込めるとも期待されたが、若年層相手のブローカレージビジネスを成立させる難しさを改めて知らしめる結果となった>

通話アプリ大手のLINEが証券業務から撤退し、顧客を野村證券に移管することになった。LINEは若年層を中心に巨大な顧客基盤を抱えており、同社の証券業務進出は若者を投資に呼び込む施策として注目を集めていた。「貯蓄から投資へ」という政府の方針も重なり、大きな期待が寄せられたものの、そのもくろみは完全に失敗したとみてよいだろう。

同社は全国に9000万人もの利用者を抱えている。若年層にとってLINEはなくてはならないツールであり、証券業務に進出すれば、一気に若い顧客層を獲得できるとの期待があった。

証券業界はバブル崩壊以降、低迷が続いており、ネット証券の台頭で一時的に盛り返したものの、既存顧客はほぼ獲得し切った状況にある。ネット証券は寡占化が進み始めており、トップのSBI証券の口座数が1000万口座を突破する一方、3位のマネックスはわずか220万口座と、市場は完全に停滞している。

業界の頼みの綱となっていたのが、投資経験が少ない若年層の獲得であり、IT大手であるLINEの参入はその起爆剤になると考えられていた。既存証券大手の野村がLINEと提携したことの背景に、若年層を取り込みたいとの思惑があったのは間違いない。

だが、若年層を投資に呼び込む戦略については、以前から疑問視されていたのも事実だ。20年にわたる不況で若年層の賃金は著しく下がっており、投資したくてもほとんどの人が余剰資金を持っていない。お金がなければ投資そのものが成り立たないので、手数料収入など望むべくもない。

「回転売買」に手を染めてきた証券会社の歴史

仮に宣伝を強化して口座を増やしたとしても、収益構造上の課題も大きい。金融商品の売買を仲介し、手数料を徴収する業態のことを証券業界ではブローカレージと呼ぶが、この業態は典型的な薄利多売のビジネスである。

比較的余裕のある高齢者が今の証券業界の主要顧客だが、それでも営業マンが顧客に株式の売買を強く推奨し、何度も取引させるという、いわゆる回転売買を行わないと十分な手数料を得ることは難しい。

既存の証券会社はかつて、顧客に半ば強引に株を売買させて手数料を稼ぐ手法で、何度も社会的批判を受けてきた。だが回転売買をやめると業績が低下するので、再び回転売買に手を染めるという歴史の繰り返しだった。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-中国、欧州EV関税支持国への投

ビジネス

中国10月製造業PMI、6カ月ぶりに50上回る 刺

ビジネス

再送-中国BYD、第3四半期は増収増益 売上高はテ

ビジネス

商船三井、通期の純利益予想を上方修正 営業益は小幅
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 2
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符を打つ「本当の色」とは
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 5
    北朝鮮軍とロシア軍「悪夢のコラボ」の本当の目的は…
  • 6
    米供与戦車が「ロシア領内」で躍動...森に潜む敵に容…
  • 7
    娘は薬半錠で中毒死、パートナーは拳銃自殺──「フェ…
  • 8
    カミラ王妃はなぜ、いきなり泣き出したのか?...「笑…
  • 9
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」…
  • 10
    衆院選敗北、石破政権の「弱体化」が日本経済にとっ…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 3
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」全長10メートルの生活の魅力を語る
  • 4
    2027年で製造「禁止」に...蛍光灯がなくなったら一体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語ではないものはどれ?…
  • 6
    渡り鳥の渡り、実は無駄...? 長年の定説覆す新研究
  • 7
    北朝鮮を頼って韓国を怒らせたプーチンの大誤算
  • 8
    「決して真似しないで」...マッターホルン山頂「細す…
  • 9
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 10
    【衝撃映像】イスラエル軍のミサイルが着弾する瞬間…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 8
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 9
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 10
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story