コラム

麻生大臣はコロナ経済対策を誤解している?「給付金は効果なし」は本当か

2020年11月25日(水)12時04分

KIM KYUNG HOONーREUTERS

<一律10万円の定額給付金と、GoToキャンペーンのような施策は目的が違うので、効果が違うのも当然だ>

寒い季節に入り、新型コロナウイルスの感染者数が再び増加の兆しを見せている。感染が再拡大すれば経済への影響も懸念されるが、こうしたなか、麻生太郎副総理兼財務相が「特別定額給付金」について誤った認識に基づいて批判するという出来事があった。

麻生氏は財政の責任者で、コロナが再拡大したときには経済対策のカギを握る人物といえる。対策には、外出自粛などが実施された際にパニック的な事態を回避するための緊急措置と、コロナと経済成長を両立させるための長期的措置の2種類がある。政府が誤った対応を行わないよう、経済対策の在り方についてもう一度整理する必要がある。

麻生氏は10月24日、コロナ対策として実施された一律10万円の特別定額給付金について、貯金が増えたので効果は限定的だったという趣旨の発言を行った。「お金に困っている方の数は少ない」という発言とセットだったことから、生活困窮者の状況を理解していないと批判が殺到した。

コロナ危機で生活が破綻している人がいる現状を考えると、無神経な発言だったことは間違いないが、この発言は経済政策の責任者としても大きな問題をはらんでいる。

当初、政府は所得を制限した給付金を検討していたが、大半の人にお金が給付されないことが判明したことから国民が猛反発。政府は急きょ、一律10万円のプランに切り換えた。

貯蓄が増えることは想定内のはず

筆者を含め、多くの論者が一律給付を主張したのは、外出制限といった大きなショックが経済に加わった場合、どこにその影響が及ぶのか詳細に予測することは不可能であり、パニックを回避するためには、例外を設けずに給付することが重要だからである。

当然のことだが、コロナ危機の影響を受けない国民もいるので、こうした人たちが振り込まれた給付金を引き出すとは限らない。つまり、特別定額給付金というのは、貯蓄が増えることを最初から想定した施策ということになる。

ところが麻生氏は給付金の配布によって消費が増える効果を期待していたようで、貯蓄増加を問題視する発言を行った。非常に困ったことだが、麻生氏はこの政策の目的や波及効果について完全に認識を誤っていると考えられる。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

NATOのウクライナ巡る行動に「核紛争リスク」、ロ

ビジネス

トランプ氏、4月2日の相互関税発動に変更なし

ビジネス

米2月の卸売物価は前月比横ばい、関税措置が今後影響

ワールド

トランプ氏「ロシアの正しい対応に期待」、ウクライナ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    【クイズ】世界で1番「石油」の消費量が多い国はどこ?
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 5
    SF映画みたいだけど「大迷惑」...スペースXの宇宙船…
  • 6
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 7
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
  • 8
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 9
    「トランプの資産も安全ではない」トランプが所有す…
  • 10
    「紀元60年頃の夫婦の暮らし」すらありありと...最新…
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 3
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 6
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「…
  • 7
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 8
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 9
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 10
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story