コラム

日本が成長できない本当の理由 企業は設備投資をドブに捨てているようなもの

2019年10月08日(火)14時30分

シャープの液晶事業は巨額の損失をもたらした Yuya Shino-REUTERS

<平均名目成長率を寄与度で分解したグラフからは興味深い事実が読み取れる。アメリカとドイツは経済構造と成長の実態が合っており、つまりこれは両国の設備投資は有効だということ。その一方で日本は......>

前回の記事では、壮大な経済政策を打ち出さなくても、個別の問題について適切に対処するだけで、日本経済は十分に成長できると述べた。個別に対処すべき課題の中でも特に影響が大きいのが企業の設備投資である。日本企業の設備投資は、極めて効率が悪く、これが全体の成長に深刻な影響を及ぼしている。設備投資の内容を精査するだけで、日本経済の状況は一変するはずだ。

日本設備投資は深刻な問題を抱えている

経済成長において企業の設備投資が果たす役割は大きい。定義上、工場や店舗などに対する設備投資はGDP(国内総生産)にカウントされるので、設備投資が増えれば、その分だけ国民の所得も増え、経済成長に貢献する。だが個人消費とは異なり、設備投資の役割はその年のGDPを増やすことだけではない。

工場や店舗といった設備は、5年、10年先の収益を生み出す事業基盤であり、設備投資が多ければ多いほど、将来のGDPも増えるというメカニズムが働く。エコノミストらが設備投資の動向に注意を払っているのはこうした理由からだ。

だが、設備投資の増加で経済が成長するというメカニズムが働くためには一定の条件が必要となる。それは、時代に合った適切な設備投資が実施されることである。いくら設備投資が成長の原動力になるといっても、役に立たない設備にばかり投資していたのでは、それは消費(浪費)と同じであり、それに見合う成果が得られないのは当然である。

設備投資を原動力に経済を成長させるためには、将来、生み出す収益が大きい設備に資金を投じ、投資効率を上げる必要がある。だが困ったことに、日本の場合、設備投資の中身に深刻な問題を抱えている。

zu001寄与度.jpg

図は日米独の過去7年間における平均名目成長率(自国通貨ベース)を寄与度で分解したものである。これを見れば、リーマンショック以降、各国が何を原動力に経済を成長させてきたのかが分かるのだが、グラフは興味深い事実を示している。

米国は経済成長に対する個人消費の寄与度が高く、ドイツは個人消費の割合が低い代わりに輸出と設備投資の比率が高い。米国のGDPは個人消費が7割を占めているので、個人消費の伸びで経済を成長させるという図式と整合性が取れている。ドイツは個人消費の比率が低く、製造業の輸出や設備投資が経済のエンジンとなっている国なので、経済構造と成長の実態が合っている。

【参考記事】日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう
【参考記事】「日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう」への反響を受け、もう一つカラクリを解き明かす

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story