コラム

実は福祉大国アメリカ 予算教書があぶりだした意外な素顔

2017年06月06日(火)12時20分

paulprescott72-iStock.

<オバマケアにより増額されてきた社会保障費が一変しようとしている。福祉予算削減から起こりうる消費の低迷は、景気にマイナスの影響を与えるリスクも...>

米トランプ政権がとうとう予算教書を議会に提出した。トランプ氏が公約として掲げていた税制改革は盛り込まれたものの、インフラ投資については十分とはいえない水準に落ち着いた。しかも減税分の財源については、3%の経済成長を前提にした税収増と福祉予算の大幅削減で捻出する形となっており、実現可能性をめぐって議論となることは必至だ。

予算は経済対策よりも財政収支を優先

予算教書は、大統領が議会に対して予算編成の方針について示すためのものである。米国の制度では予算編成の権限はすべて議会にあるため、行政府が予算案を作成することはできない。このため大統領は教書という形で要望を示し、議会の予算編成に対して影響力を行使する。

政権が発足して最初に発表される予算教書は、その政権の運営方針を如実に表すことになるので、多くの関係者がその内容に注目することになる。ところがトランプ政権の場合、主要官庁の人事が予定通りに進まず、実務が滞ったことで教書の作成ができず、暫定版の公表にとどまっていた。暫定版には財源が示されていなかったため、十分な議論ができない状況であった。

5月23日に公表された正式版は、10年間で3.6兆ドル(約400兆円)の歳出削減を行い、2027年度に財政収支を黒字化するという財政再建色の濃い中身となった。トランプ氏が掲げてきた大型減税については、おおむね公約通りの内容が盛り込まれたが、インフラ投資については民間と合わせた形で1兆ドル(約115兆円)となり、政府による直接的な支出は2000億ドルにとどまった。

大型減税を実施することから財政収支は悪化することになるが、これを手当てする財源としては、経済成長による税収増と福祉予算の大幅カット、石油備蓄の放出などが充当されることになった。ところが経済成長の見通しは、昨年までの教書と比較するとかなり楽観的になっており、この数字が実現できるかどうかは微妙なところだ。

【参考記事】大荒れトランプ政権、経済政策の命運を握る2人のキーパーソン

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感11月確報値、71.8に上

ワールド

レバノン南部で医療従事者5人死亡、国連基地への攻撃

ビジネス

物価安定が最重要、必要ならマイナス金利復活も=スイ

ワールド

トランプ氏への量刑言い渡し延期、米NY地裁 不倫口
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story