コラム

シリア・北朝鮮...地政学的リスクに市場が反応しない理由

2017年04月18日(火)12時10分

ismagilov-iStock.

<北朝鮮問題が緊迫化。だが市場は地政学的リスクの高まりを懸念しているわけではない。本当に警戒すべきなのは経済政策の遅延>

米軍によるシリア攻撃や朝鮮半島情勢の緊迫化など、地政学的リスクがにわかに高まっているが、市場はそれほどネガティブな反応を見せていない。だが市場は一連の事態を楽観視しているわけではなく、むしろこの先にあるもっと大きなリスクを懸念している。

シリア攻撃によって米国はいつもの米国に逆戻り

トランプ政権は4月6日、シリアのアサド政権が化学兵器を使用したとして、シリアの軍事施設に対するミサイル攻撃を行った。トランプ政権は北朝鮮に対しても強硬姿勢を示しており、中国が北朝鮮問題で協力しない場合には、単独行動もあり得ると中国にプレッシャーをかけている。

にわかに地政学的リスクが高まっているわけだが、市場の反応は思ったほどネガティブには反応しなかった。米国の株式市場は下落し、金利も低下したが、大きく相場を崩したわけではない。市場は、むしろ一連の事態に対してクールに反応したといってよいだろう。だがこのことは市場が地政学的リスクに無関心であることを意味しているわけではない。むしろ米国の長期的な政策転換リスクの方を懸念しているといった方が正しいだろう。

米国はこれまで世界の警察官を自認し、多くの国際問題に対して軍事力の行使を含めた積極的な関与を行ってきた。これは第二次大戦後の米国では主流となっている価値観であり、党派を超えたものといってよい。米国の積極外交は国際社会の安定化に貢献してきたが、一方で、反米感情を煽る結果につながったのも事実である。

こうした流れを大きく変えたのがオバマ前大統領だった。オバマ氏は歴代の大統領の中では突出して国際問題、特に中東問題に対する関心が低く、基本的に紛争には関わらないというスタンスを明確にしてきた。実際、2013年にシリアが化学兵器を使用した際にも軍事行動を見送っている。

孤立主義的な価値観をさらに強調することで大統領に当選したのがトランプ氏である。トランプ氏は「米国第一主義」を掲げ、外交政策や経済政策は米国の利益だけを基準にすることを明確にした。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)から離脱したり、人権上の問題を抱えるロシアとの関係改善を図ったのも、こうした考え方の延長線上にある。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story