コラム

トランプ経済が「レーガノミクスの再来」ではない理由

2017年03月07日(火)17時07分

同じ共和党の大統領ということで、アイゼンハワー氏を引き合いに出したものと思われるが、財政拡大を志向しているトランプ政権とはスタンスがだいぶ異なっている。

トランプ政権はレーガン政権と比較されることが多い。確かに愛国的スローガンという部分においてトランプ政権とレーガン政権には類似点が見られるが、根源的な部分では、両政権はむしろ正反対と考えた方がよい。

レーガノミクスは、高金利、ドル高、緊縮財政、減税、規制緩和の5つに集約できる。レーガン政権以前、1970年代の米国は深刻なスタグフレーションに悩まされており、経済成長が鈍化しているにもかかわらず、物価は上昇を続けていた。

レーガノミクスは、需要ではなく供給サイドを重視。徹底した規制緩和を進め、企業を容赦なく競争環境に放り込んだ。これは制度疲労を起こしていた米国経済に対する劇薬といってよく、このおかげで米国経済は力強く蘇った。だが、トランプ氏が強く批判している米国の中間層没落は、レーガノミクスによるグローバルな競争原理主義が生み出したものでもある。

優先順位は、インフラ投資、減税、国境税の順

トランプ氏が掲げてきた政策は、総花式で相互に矛盾するものも多かった。だが結果的に政策の優先順位は、インフラ投資、減税、国境税の順となりつつあり、需要拡大策がクローズアップされることになった。

競争力の弱い産業を保護する結果になっても、政府があえて需要を作り出し、労働者に仕事を分配するという意味において、トランプ政権の経済政策はニューディール政策に近い。つまりトランプ経済はどちらかというと民主党的なのだ。

ニューディール政策は、大恐慌後の極端な需要不足と労働者の失業問題を解消する目的で行われた、巨額の公共事業を中心とした経済政策である。まさにケインズ経済型の需要サイドに立脚した考え方であり、その後、第二次世界大戦という特需が発生したこともあって、米国経済は完全に息を吹き返した。

現在の米国はリーマン・ショックから立ち直り、ほぼ完全雇用に近いレベルまで失業率は低下したものの、雇用のミスマッチが依然として続いている。目的や状況は異なるかもしれないが、需要サイドを重視し、労働者に意図的に仕事を分配するという点においては、トランプ氏の政策はまさにニューディールといってよいだろう。

【参考記事】トランプ新政権で米国は好景気になる可能性が高い

需要創造型経済における副作用のひとつは金利の上昇だが、ルーズベルト政権では、金利の釘付け政策を行い、金利上昇を容認しつつも、そのスピードや上昇幅については抑制を加えた。これが景気の拡大をうまく後押ししたことは間違いない。トランプ政権もドル高と金利上昇は容認しつつも、それを抑制しようという意図が見られる。

市場関係者の中には、超大型減税まで同時に具体化すると、景気が過熱したり、金利高騰を招くリスクがあることから、減税案の調整に時間がかかることを好感する向きもある。微妙なバランスに依存した舵取りではあるが、インフラ投資への優先順位が高まったことで、当面、米国経済は堅調に推移しそうだ。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏への量刑言い渡し延期、米NY地裁 不倫口

ビジネス

スイス中銀、物価安定目標の維持が今後も最重要課題=

ワールド

北朝鮮のロシア産石油輸入量、国連の制限を超過 衛星

ワールド

COP29議長国、年間2500億ドルの先進国拠出を
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story