コラム

東芝など日本企業の海外M&Aが失敗しがちなのはなぜか

2017年02月21日(火)15時43分

大型M&Aを成功させる2つの条件

大型のM&Aにおいて買収価格が高騰するのはよくあることなので、単純に価格が高すぎるという批判はあまり意味がない。ただ、こうした案件を成功させるためには、以下の2つのうち、どちらかの条件を満たす必要がある。

ひとつは、買収価格が高くても確実にキャッシュフローを得られること、もうひとつは、比較的短期間で業績を改善できる見通しが立っていることである。

不動産は買収価格が高いからといって、それに合わせてテナント料を引き上げることは難しく、買収価格の高騰はそのまま採算悪化につながる。その意味でロックフェラーセンターは最初から難しい案件だったと解釈できる。不動産価格が引き続き高騰することに賭けるしかない。

IBMのHDD事業やWHの買収については、業績を回復できる見込みがあれば、よい案件だったかもしれないが、現実はかなり厳しかった。

日立がHDD事業を買収した当時、HDDは急激な勢いでコモディティ化が進み、価格破壊ともいえる状況になっていた。これは構造的な要因であり、業務の改善でカバーできる部分は限られる。IBMはHDDのエキスパートであり、こうした状況を理解していたからこそ、自ら開発した技術と製品を手放したものと考えられる。

WHも同様である。米国では原子力事業はすでに斜陽産業と見なされており、福島原発事故以降はその傾向に拍車がかかっていた。WHのライバルで、やはり原発メーカーでもあったGE(ゼネラル・エレクトリック)は、同じ頃、原発からの撤退を決断している。

【参考記事】GEがボストンに本社を移し、日本企業は標準化の敗者となる

東芝だけが、縮小マーケットに対して果敢に挑んだ構図であり、WHについても、構造的な要因が大きかったと考えるべきだろう。買収後に東芝本体が業績拡大に関与できる余地は少なく、そのような中で強気の事業計画を策定してしまうと、結果として無理なプロジェクトにつながってしまう。

ソフトバンクやサントリーの買収はどうか?

一時期、日本企業の海外M&Aは停滞していたが、国内市場の縮小が顕著になっていることもあり、再び大型案件が模索されるようになってきた。ソフトバンクが3.3兆円を投じて英イギリスの半導体設計大手ARMを買収したり、サントリーが1兆6000億円を投じて酒類大手ビームを買収したのは典型的なケースといってよいだろう。

先ほどの成功法則に照らせば、ソフトバンクのARM買収とサントリーのビーム買収は成功する確率が高い案件といえる。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、キーウ攻撃に北朝鮮製ミサイル使用の可能性=

ワールド

トランプ氏「米中が24日朝に会合」、関税巡り 中国

ビジネス

米3月耐久財受注9.2%増、予想上回る 民間航空機

ワールド

トランプ氏、ロのキーウ攻撃を非難 「ウラジミール、
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 5
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    「地球外生命体の最強証拠」? 惑星K2-18bで発見「生…
  • 8
    謎に包まれた7世紀の古戦場...正確な場所を突き止め…
  • 9
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story