日本で倒産が激減しているが、決して良いことではない
本来なら市場から退出すべき企業が銀行の減免措置や返済猶予によって延命させられると、新しい産業に人が回ってこず経済に悪影響を及ぼす helenecanada-iStock.
〔ここに注目〕倒産件数と実質GDP成長率の関係
このところ日本企業の倒産件数が著しく減少している。倒産が少ないことは良いことだと思われがちだが、必ずしもそうではない。本来なら存続が難しいはずの企業が延命するケースが増え、経済の新陳代謝が進まないという弊害もある。実は、これが日本経済の好循環を阻害している可能性があるのだ。
本来、アベノミクスの成長戦略はこうした非効率な部分を改革するためのものだったが、今のところ一部を除いてほとんど成果は上がっていない。最近、量的緩和策の限界を指摘する声が出ているが、もしかすると、原因はもっと根本的なところにあるのかもしれない。
産業構造が変化するタイミングで倒産は増える
東京商工リサーチがまとめた年間の企業倒産件数調査によると、2015年における倒産件数は8812件となり、過去24年間で最低の水準となった。バブル経済のピークで倒産件数が異常に少なかった一時期を除くと、1974年以来の低水準ということになる。
倒産件数が減少している直接的な原因は、2009年に導入された中小企業金融円滑化法の影響である。この法律は、資金繰りの厳しい中小企業から返済条件の変更を求められた場合、銀行は可能な限り、金利の減免や返済期限の見直しに応じなければならないというもの。法律そのものは時限立法となっており、2013年に効力を失っている。だが銀行は、引き続き円滑化法の趣旨に則った対応をしており、これが倒産件数の減少につながっている。
十分に収益を上げられるはずだった企業が、銀行側の論理で資金繰りに窮することがあってはならないが、現実はその逆が多い。本来なら存続が難しい企業も、銀行の減免措置や返済猶予によって延命しているケースが増えている。
一般的に企業は不景気になると倒産するというイメージがあり、部分的に見ればその解釈は合っている。図は倒産件数と実質GDP(国内総生産)成長率を組み合わせたものだが、バブル末期には倒産が著しく減少し、バブル崩壊後の90年代後半には倒産件数が増えていることが分かる。だが、景気と倒産にそれほど明確な関係があるというわけではなく、相関係数を取ってもマイナス0.17程度にしかなっていない。景気が良くなると倒産が減り、悪くなると倒産が増えると言い切ることは難しいだろう。
むしろ着目すべきなのは、バブル経済に向かって景気が拡大していた1980年代半ばに倒産件数が増えていることや、ネットバブルといわれた2000年前後、あるいは米国の不動産バブルで一時的に日本も好景気に湧いた2000年代後半に倒産が増えているという事実である。いずれも、企業のビジネスモデルや産業構造が大きく変化した時期である。このような時にこそ倒産が起こりやすいと考えることもできるのだ。つまり、前向きな意味での新陳代謝である。
こうした点から考えると、リーマンショック以降、倒産件数が順調に減少してきているのは、経済の新陳代謝が進んでいないことが原因である可能性が高くなってくる。
では、中小企業金融円滑化法が効力を失ってからも、同じような状況が続いているのはなぜか。それには、銀行が政治問題化を懸念し、躊躇しているという面もあるが、企業自身が前向きな倒産を決断できないという状況も大きく関係している。
当然のことながら、量的緩和策の実施によって一段と進んだ低金利が、企業の金利負担を低下させ、延命効果をもたらしているという面も否定できないだろう。
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