コラム

妙な安定感の「岸田印」に迫るこれだけの難題

2022年02月05日(土)17時29分

安倍元首相をして「なんか安心する」と言わしめた岸田だが…… Yoshikazu Tsuno/Pool via REUTERS

<官僚の使い方もうまい岸田政権だがアフターオミクロンの世界には「検討します」では済まない課題が山積>

世の中は新型コロナ一色。物騒な犯罪は増えたが、政府からの救済資金で倒産件数が少ないこともあり、社会にはまだ奇妙な安定感が漂う。「岸田印の安定感」だ。

安倍晋三元首相は「岸田さんが隣にいるとなにか、安心するんだよね」とよく言ったという。嘘をついたり、ごまかしたり、世論に擦り寄るでもなく、ただ真摯に「その問題は承知しております。対処を検討します」と言われると何となく安心して......あとは忘れてしまう。

官僚の使い方もうまい。安倍政権後期は某省出身のひと握りの秘書官が思い付きを各省に指令していた感があったが、岸田時代は財務省出身者が総理官邸の扇の要になって、各省の政策を小まめに調整しているようだ。財務省主導だと予算の裏付けがあるから話は速い。

ところで戦後の日本では、何についても「政府が悪い」「首相が悪い」「政治家が悪い」「官僚が悪い」のひとことで片付けるのがかっこいい、インテリの証しということになっていて、それをまたマスコミがあおってきた。

これは実は、「御公儀」が何でも決めた江戸時代の名残なのだ。しかし、何もかも政府に丸投げするとろくなことはない。昔筆者が勤務したソ連では、大卒生は就職先を政府に「分配」してもらった結果、僻地で生涯を終えた者も多かった。

そして日本人は、日本という閉じられた系の中でしか物事を考えない。外の世界で何が起きていて何が善悪の判断基準になっているか、調べない。世界が日本と異質なら(「日本が世界と異質なら」ではない)鎖国してしまえ、ということで今のコロナ鎖国は実は日本人の気質に合っている。

そして、参院選までは与野党間の争いとなり得る問題を避けたい岸田政権にとって、今のコロナ一色の状況は悪いものではない。しかし、ヨーロッパの一部ではオミクロン株の流行も峠を越して国民の行動制限を解除するところも現れている。日本も3月にはそうなっているだろう。

その時に政権が取り組まねばならない問題は「参院選までは静かに」では済まないものばかり。アメリカを先頭に、リーマン危機以降の、そしてコロナ禍緩和のための大盤振る舞いの逆回転が起きる。金利は上がり、輸出、景気は低迷するだろう。予算・税をめぐっても熾烈な争いが始まる。エネルギー問題も、波乱の度を高める。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=まちまち、FOMC受け

ビジネス

ドル一時153.00円まで4円超下落、現在154円

ビジネス

FRB、金利据え置き インフレ巡る「進展の欠如」指

ビジネス

NY外為市場=ドル一時153円台に急落、介入観測が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story