コラム

習近平の台湾統一は中国の黙示録になる

2020年12月12日(土)15時29分

台湾への上陸作戦は容易でない(演習を行う台湾軍、2019年) TYRONE SIUーREUTERS

<台湾総統府への襲撃準備まで進める中国だが、そうなれば想定以上の苦戦と自国経済の崩壊が待ち受ける>

今年の1月、台湾で民進党の蔡英文(ツァイ・インウェン)が総統に再選される前後から、中国は台湾への攻撃的言動を急速に強化している。

習近平(シー・チンピン)国家主席は2019年1月の演説で、武力行使の可能性までにおわせて台湾に恭順を迫ったし、今年の夏以降、中国軍機は台湾空域への異常接近を繰り返す。

これは、蔡総統が台湾「独立」の方向に進むのを牽制するためだけなのか、それとも台湾、そしてバイデンのアメリカに隙あらば、一気に武力制圧にまで進むことを考えているのだろうか。

折しも来年の7月は、中国共産党創設100周年。習としては、次の節目となる2049年の中国建国100周年まではとても待てない。しかしうっかり手を出せば、台湾ではなく、中国にとっての黙示録、終末を意味するものとなりかねない。どういうことか。

一般に、「中国は軍事力で台湾を圧倒しているし、米海軍も中国のミサイルを恐れて寄り付けないから、中国の独壇場だ」ということになっている。中国のゴビ砂漠には、台湾総統府を模した建物のある「演習場」がある。総統府に奇襲をかける演習でもしているのだろう。しかしそれは失敗しやすいし、総統1人を倒しても台湾は倒れない。

ならば、台湾を海上封鎖して経済で締め上げるか?しかしそのときは、米海軍の出番。中国は米軍艦を攻撃すれば、倍返しされることを知っているから引かざるを得ない。それに、アメリカと台湾の潜水艦が中国のシーレーンを脅かしたら中国経済が倒れる。台湾への大々的な上陸作戦は、これ以上に難しい。台湾の西海岸は台湾軍が守りを固める。そのうえ機雷をまかれたら、中国艦船は近寄れまい。

習から距離を置く幹部たち

習は、台湾を単なる反中共勢力の根城としか考えていないかもしれないが、今の台湾の主流は生え抜きの住民だ。国共内戦時代の言葉で言えば、八路軍は台湾地域の住民の人心収攬(しゅうらん)に失敗して、ここを制圧する大義名分を持っていないのだ。だから台湾侵攻は成功せず、かえって中国経済の崩壊を招くだろう。

欧米は中国に対する大々的な経済制裁を科すだろうし、中国側もその制裁に従う欧米企業を「敵性」企業と認定し、最悪の場合、その企業の在中資産接収などの挙に出るだろう。こうなれば、中国はその高度成長を支えた対外貿易の多くと欧米の技術を決定的に失う。

中国のエリートは、そのような習一派との無理心中を恐れる。既に以前の腹心である王岐山(ワン・チーシャン)副主席も、習近平グループの保守路線から距離を置きつつある。このような、誰のためにもならない対立が起きないよう、中台関係を現状で何とか固定できないものか? 

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 7
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 8
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 9
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 10
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story