日本とドイツが民主主義の防波堤に? 欧州右傾化にバノンが参戦
極右の躍進に直面するドイツのメルケル首相 Hannibal Hanschke-REUTERS
<トランプ米大統領の元参謀バノンがロシアと共に極右を支援――「民主・自由国家」対「米欧ロ右翼同盟」の行方は>
対米貿易黒字などをめぐって、トランプ米大統領が同盟国に乱暴な圧力をかけている。そんななか、ドイツが反トランプ色をますますあらわにしだした。
メルケル首相は8月15日、トルコのエルドアン大統領に電話。アメリカによる制裁で通貨リラの暴落を食らったエルドアンを励まし、9月末に訪独の招待までした。8月18日には、14年のクリミア併合以来、「信用できない」と公言して遠ざけてきたロシアのプーチン大統領と首都ベルリン近郊で会談した。
既に7月に来日したドイツのマース外相は、「政策が不透明」なトランプに言及しつつ、自由、民主主義、法の支配などを守るための日独協力を呼び掛けた。
一方、トランプの選挙参謀を務めたスティーブ・バノン元大統領首席戦略官・上級顧問は昨年8月に政権から追い出された後、古巣の右翼系メディア「ブライトバート」を根城に活動を再開。保護主義と反移民を唱える彼は7月にEU本部のあるベルギーの首都ブリュッセルに財団を設立。欧州諸国の右翼政党を支援する姿勢を明らかにした。
ドイツの右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」をもり立てて、メルケルの足を引っ張るだけではない。トランプが貿易黒字の解消を迫ると、「貿易問題は欧州委員会の管轄」の決まり文句で逃げているメルケルを見透かして、EUの足元も乱したいのだろう。
面白いことに、これら欧州の右翼諸政党にロシアがつとに接近している。首都モスクワに招待しては、資金を提供。ロシアもまたEU諸国にくさびを打ち込んで政治を攪乱し、自分の立場を良くしたいのだ。
ドイツの独善的な国民性
こうなると19世紀初頭、自由・平等・博愛を名目に帝国をつくり上げたナポレオンが没落した後、ロシアとオーストリアなどが保守の神聖同盟をつくったような対立構造が生まれかねない。「民主主義と自由貿易を掲げるメルケル政権」対「米欧ロシアの右翼同盟」という価値観の対立は、新たな国際政治の軸になるだろうか。
そうはならないだろう。ドイツ自身、内部にAfDを抱えており、いつまで自由・民主主義を掲げていられるか分からない。日本に提携を呼び掛けたマースは、メルケルの保守と連立を組む社会民主党(SPD)の政治家で、これまで中国・韓国寄りだったメルケルをどこまで日本寄りに引き込めるか不明だ。現にメルケルは、ロシアやトルコという極め付きの権威主義指導者に近づいている。
メルケルにとっては、トランプに対して自国の利益と自分の政権を守ることが第一で、自由・民主主義の擁護はそのための材料にすぎない。それに、メルケルのようにトランプと正面から対立するのはうまい外交手法ではないし、日本はまだそこまで追い詰められていない。
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