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ネタニヤフ続投で始まる「米=イスラエル=サウジ」のパレスチナ包囲網
トランプ「世紀の取引」とネタニヤフ「入植地併合」はコインの裏表
その仕上げになるのが、トランプ大統領が提案するとされる「世紀の取引」という和平案であり、ネタニヤフ首相が公約とする「入植地の併合」となるだろう。その上、ハアレツ紙が書くように「世紀の取引」と「入植地併合」は密接に結びついている。3月下旬にトランプ大統領がゴラン高原にイスラエルの主権を認める宣言をした時に、「次は西岸だ」という声は様々にメディアに出ていた。
ゴラン高原はイスラエルが占領した後、1981年に同高原にイスラエルの国内法や司法を適用することを可能にする「ゴラン高原法」を制定して、事実上の併合を行った土地だ。
国連・国際社会は、ゴラン高原についてイスラエルの主権は認めず、早期撤退を求めている。その意味では、トランプ大統領の宣言はイスラエルのゴラン高原法を追認したものとなる。これは、トランプ大統領がエルサレムはイスラエルの首都と認知したことが、イスラエルの「エルサレム基本法」を追認したことと同じである。
この流れでいけば、今後、ネタニヤフ政権が西岸の占領地にあるユダヤ人入植地を併合すれば、トランプ大統領がそれを追認することは、自明である。ハアレツ紙は入植地併合について、トランプ大統領の「世紀の取引」が示され、パレスチナ側が和平案を拒否した後に、米国の支持を得て行われると見ている。
アッバス議長が「世紀の屈辱」だとみなす「世紀の取引」については、これまで様々に情報が出ている。2018年3月にはハアレツ紙が「パレスチナ国家は西岸の約40%となり、逆にイスラエルが10~15%を併合し、残りの地域についてもイスラエル軍が治安維持の責任を持つ」という見方を報じた。
西岸は現在、パレスチナ自治政府が治安も行政も統治するA地区(18%)、▽自治政府が行政を行うが、治安についてはパレスチナ警察とイスラエル軍が共同で管理しているB地区(21%)、▽イスラエルが治安も行政も支配するC地区(61%)に分かれている。C地区には125のユダヤ人入植地があり、38万人以上の入植者が住んでいる。
ハアレツ紙が今回の選挙を受けて書いている「イスラエルは西岸のほとんどの入植地を併合し、イスラエル軍の拠点や無人地帯を包含するC地区を保持する」という見立ては、これまでトランプ大統領の「世紀の取引」の内容として伝えらえてきたものと同じである。つまり、トランプ和平案の「世紀の取引」も、ネタニヤフ首相の「入植地併合」も、同じコインの裏表ということになる。
アラブ諸国指導者がイスラエルを擁護した秘密のビデオ
さらにトランプ大統領は露骨な親イスラエル・反パレスチナ政策をとりながら、パレスチナ自治政府への主要な財政支援国であるサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンなどの湾岸産油国の協力を取り付けている。
サウジのムハンマド皇太子がトランプ大統領の和平案を受け入れるようにアッバス議長を説得しているという話は、様々なメディアで繰り返し出てくる。一方でこの3国がイスラエルとの関係正常化を進めているという報道も広がっている。
2月13日、14日の2日間、ポーランドのワルシャワで米国主導による閣僚級の中東会議が開かれ、欧州や中東など約60カ国の代表が参加した。ネタニヤフ首相も出席し、アラブ世界からはサウジ、UAE、バーレーン、カタール、クウェート、オマーン、エジプト、ヨルダン、モロッコ、チュニジア、イエメンの計11カ国から外相や副外相らが出席した。
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