コラム

韓国の与党も野党も「法の支配」と民主主義を軽視している

2025年01月15日(水)09時56分
韓国

「籠城」する尹を守る大統領警護庁の職員(1月8日) DANIEL CENGーANADOLU/GETTY IMAGES

<戒厳令宣布をめぐる尹大統領の拘束令状執行が大詰めを迎えている。一方で、いったんは地に落ちた尹の支持率が回復傾向を見せている。なぜか>

12月3日、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による戒厳令宣布と国会閉鎖などの試みは、たちまちのうちに失敗した。12月14日には、2回目の上程で大統領の弾劾訴追案が可決され、尹の大統領としての権限が停止された。尹や彼と共に戒厳令宣布を主導した人々には内乱罪の嫌疑がかけられ、前国防相をはじめとする要人が次々と逮捕された。

このような状況を受けて日本のメディアでは、続く憲法裁判所の審査でも弾劾が認められるのは確実であり、その後に行われる大統領選挙で最大野党「共に民主党」代表の李在明(イ・ジェミョン)が当選するだろうとの予測の下、来たるべき政権での対日政策について議論するところまで現れた。


しかし、韓国の政治状況は大きく変化した。尹は戒厳令宣布以後の自らの行動の違法性を認めず、弾劾反対で党論を統一した与党「国民の力」は国会で多数を占める野党に強硬に対峙した。紆余曲折を経て憲法裁判所による弾劾審査は12月27日に開始されたものの、一連の事件の捜査に当たる高位公職者犯罪捜査庁による捜査は、尹の拘束令状執行が大統領警護庁の抵抗によって1月3日に中止した後、膠着状態に至っている。

大統領が自らの官邸に「籠城」を続けるなか、韓国世論も変化しようとしている。世論調査会社リアルメーターによれば、「共に民主党」と「国民の力」の支持率の差は、大統領弾劾訴追案が国会で可決された12月第2週には52.4%対25.7%とダブルスコアに近い状態まで開いていたが、わずか3週間後の1月第1週には45.2%対34.4%まで縮小した。この与党の支持率は尹が戒厳令を宣布する直前の調査をわずかながら上回る。尹と与党は戒厳令宣布と大統領弾劾のダメージから急速に立ち直りつつあるように見える。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、自動車関税4月2日見送りも 相互関税は予定通り

ワールド

米・ウクライナ、リヤドでの米ロ会合後に再度協議

ビジネス

ヘッジファンド、2週連続で欧州株売り越し=米ゴール

ワールド

エジプト、ガザ停戦に新提案 人質週5人解放で「第2
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放すオーナーが過去最高ペースで増加中
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 5
    コレステロールが老化を遅らせていた...スーパーエイ…
  • 6
    ロシア軍用工場、HIMARS爆撃で全焼...クラスター弾が…
  • 7
    トランプの脅しに屈した「香港大富豪」に中国が激怒.…
  • 8
    止まらぬ牛肉高騰、全米で記録的水準に接近中...今後…
  • 9
    ドジャース「破産からの復活」、成功の秘訣は「財力…
  • 10
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャース・ロバーツ監督が大絶賛、西麻布の焼肉店はどんな店?
  • 4
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 9
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 10
    「気づいたら仰向けに倒れてた...」これが音響兵器「…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story