コラム

韓国に学ぶ「マイナカード」──情報の民主的な運用にこそ注視すべき

2022年11月01日(火)11時56分

北朝鮮の脅威と住民登録番号にはもう1つ別の関係もある。徴兵制がある韓国ではその実施のために、個々人を確実に把握する必要がある。

パソコンやインターネットなどなかった60年代、韓国には38度線以北から逃れてきた人も多く、北朝鮮からの工作員を見つけ出し、確実に徴兵を行うのは容易ではなかった。その作業を劇的に容易にしたのが住民登録番号とカードだった。

とはいえ、こうして多くの個人情報が1つにまとめられ、管理される社会は不安に思えなくもない。韓国は市民運動が盛んな国で、前大統領の文在寅(ムン・ジェイン)は人権派弁護士として知られた人物だった。にもかかわらず、彼らはなぜこのシステムに疑問を持たず、活用を積極的に進めているのだろうか。

それは彼らがこのシステムとあまりに長く暮らし、慣れてしまっているから。そして国家に情報を集めさせないのではなく、情報を持つ国家を民主的に管理することで、個人情報をめぐる問題を解決しようとしているからである。

1つにひも付けされていようといまいと、現在の国家は多くの情報を管理し、街には監視カメラがあふれている。だからこそ、いたずらに情報管理の効率化を拒むより、既に多くの情報を管理する国家を民主的に統制していくことのほうが重要である。

結局重要なのは、アクティブで競争的な民主主義そのものなのだ。韓国の事例はわれわれにそのことを教えている。

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プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


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