輸出規制への「期待」に垣間見る日韓関係の「現住所」
事実、今回の日本政府の措置を受けて、韓国では同様の世論の強硬化が起こっている。7月4日にリアルメーターが発表した世論調査によれば、日本側の措置に対して「外交的交渉により解決すべき」と答えた人は僅か22%。言うまでもなく、外交的交渉イコール日本への譲歩、ではないから、今回の措置を契機に日本へと譲歩すべきだと考える人々は少数であることになる。他方、46%がWTOへの提訴を含む国際法的対応を、24%は経済的報復措置による対処を選択しているから、70%の韓国人が日本への明瞭な対決姿勢を選択している事になる。さらにいえば、文在寅政権の与党である「共に民主党」支持者のうち「外交的交渉による解決すべき」と答えた人は僅か5.7%。この状況で文在寅政権が、自らの支持者の圧倒的な意志に反して、徴用工問題等で日本への譲歩を選択できる筈がない。
わかりやすくいえば、少なくとも現段階では、今回の措置は韓国政府をして、むしろ譲歩から遠ざからせる効果すら有していない。世論が硬化した結果、文在寅政権の取りうる外交的選択の幅はむしろ限られてしまうからである。そもそも韓国の人々にとって、徴用工問題や慰安婦問題といった日本との歴史認識問題は、自らのナショナルアイデンティティに関わる問題であるから、経済的利益との間で簡単に取引できる様なものではない。
韓国は再び金融危機に陥る?
では、にも拘らず、日本の世論はこの措置を歓迎するのだろうか。可能性は大きく二つある。一つは何らかの理由により、人々がこの措置により韓国が屈服すると「信じている」可能性である。ここにおいて大きな影を落としているのは、日本人の持つ韓国との関係にまつわる過去の経験である。例えば、今回の措置に伴い日本国内で頻繁に出てくる議論の一つに、この措置により、韓国が金融危機に陥り、日本をはじめとする国際社会に助けを求めてくるのではないか、というものである。そこには韓国は経済的に不安定な国であり、日本による措置がこの国の脆弱な経済に決定的な影響を与えるに違いない、と言う「期待」がある。
過去の経験の表れは、経済関係のみならず、国際関係についても見ることができる。その表れの一つは一部の人々の間で繰り返される、今回の措置は国際社会、とりわけ日韓両国に大きな影響力を持つ、アメリカに支持されるに違いない、と言う「期待」である。だからこそ、日本単独の経済制裁としては効果が小さくとも、アメリカをはじめとする主要国がこれに続く事になれば、結果として韓国経済へのダメージは大きくなり、韓国はやがて日本に屈服するに違いない、とするのである。
同様の過去の経験に由来する「期待」は、韓国の国内政治においても見ることできる。この点で興味深いのは、今回の措置を支持する人々の一部が、これを契機に文在寅政権に反対する韓国の保守勢力が反旗を翻し、日本側の意図を後押ししてくれるであろう、と言う「期待」を繰り返し表明していることである。当然の事ながら、そこには日韓間の紛争が起こる度に、保守的な政治家や韓国財界がその修復に努めてきた、と言う過去の経験が存在する。
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