コラム

「一番マシ」な政党だったはずが...一党長期政権支配がついに終わる

2024年05月09日(木)19時22分

今回、引退する議員の中には、41歳で未来を担うかもしれない人物だった、僕の地元のウィル・クインスも含まれる。国中で多くの人々が労働党支持に転じたとしても、彼は次回選挙で再選を果たす可能性が十分にあったと僕は考えている。だから彼の政界引退は単に「避けられない事態を先に済ませた」というわけではない。

僕の地元は「三つ巴」の構図なので、「反・保守党票」が労働党と自由民主党の間で割れる可能性がある。僕が思うにクインスはまともな議員だったから、チャンスだってあった。おそらく彼について最も知られているのは、死産したり乳幼児と死別したりした親に有給休暇を与える法律を成立するために尽力し、成し遂げたことだ。

個人的には、僕の気が狂いそうなほどイライラさせられたトラブルの解決に手を貸してくれたから、僕は彼に感謝している。以前僕は、うちの近所で一晩中うるさい音を立てて稼働している発電機を何とかしてほしいと地元当局に何カ月も訴えていた。必死の思いでクインス議員に手紙を書き、彼が関与してくれるようになると、すぐさま物事が動き出した。

なぜこんなことを言うかというと、議員が自分の地元の選挙区民を悩ましている地元の些細な問題を気にかけてくれるか、それとも当選後は選挙区民のことなどすっかり忘れてしまうか、というのは、人々が国会議員を判断する基準の1つになるからだ。

だから彼は次回選挙で勝つことができたかもしれないが、そうだとしても明らかに、与党議員ほど面白くもなくやりがいもない野党議員の立場に甘んじなければならなくなっていたことだろう。

後任は知名度だけのタレント議員

国会議員が引退すると聞くと、誰もがシニカルに、どうせ「よりおいしい仕事」に就くんだろう、と考えがちだ。何かしら高給の閑職とか、元政治家が政界の世渡り術をフルに売り込めるようないかがわしい「コンサルティング」業務とか、カネさえ出す人なら誰にでも「コネを作ってあげる」役割とか。でもクインスは最近、将校として英軍に所属したところなので、今後は軍人という立場で公務を続けることを考えていると思われる。

僕の地元の保守党は既にクインスの後任候補を選出しているが、政治的実績もなく地域に何のつながりもない人物だけに、僕は正直言って不満に感じている。彼にあるのは有名人という強みだ。ジェームズ・クラックネルはボート競技でオリンピック金メダリスト、スポーツマンとして当然ながら有名だ。

でも僕は本能的に、最大のアピールポイントは知名度である、というタレント政治家は疑いの目で見てしまう。もしかしたら今後、クラックネルが興味深い政治アイデアに満ちていて政治の仕事にあふれんばかりのエネルギーを持ち合わせていることが判明するかもしれない。そうしたら謝ろう。でも僕がまず思ったのは、彼を選んだことには落ち目の政党の必死さが見え隠れしているし、僕の地元選挙区の重要度が下がったらしいのが見て取れる、ということだ。

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プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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