コラム

腹立たしくともジョンソンはウクライナで「善戦」

2022年04月20日(水)16時55分
キエフを訪問した英ボリス・ジョンソン首相

ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問しゼレンスキー大統領(右)と会談したジョンソン英首相(4月9日) UKRAINIAN PRESIDENTIAL PRESS SERVICE-HANDOUT-REUTERS

<新型コロナウイルスの規制を破ってのパーティーでイギリス国民から完全に嫌悪されたと思われたが、もっと嫌悪すべき相手(ロシア)の登場でむしろウクライナ対応の適切さが際立つジョンソン英首相>

現時点では、ジョンソン英首相の最大の味方は「相対評価」だ。イギリスの人々は、ロックダウンで国民に課された規制を彼が破ったことを今もまだ怒っているし、この件で彼は罰金も科された。だがロシアがウクライナを侵攻する前でさえも、ロシアのプーチン大統領が黒海沿岸に1億ポンドの宮殿(資金源は1つしか説明がつかない)を建てても許されている一方で、ジョンソンがバースデーケーキにありついただけで窮地に立たされるというのはどう考えてもおかしかった。

これはまるで親が子供にするしつけのよう。だめ、ブロッコリーを「ヘイト(大嫌い)」とは言いません。苦手なだけでしょ。

ジョンソンに対してどんなに怒りを抱いていようと、僕たちはいま気付きつつある。プーチンは嫌悪しているが、ジョンソンは気に食わないだけだということに。4月9日のジョンソンのウクライナ電撃訪問が思い出させたとおり、彼は国際問題で極めて重要な役を果たす国(欠点は多々あれど)のリーダーとして歓迎される人物なのだ。そしてジョンソンは、(欠点は多々あれど)概してこの緊急事態にうまく対処している。

ウクライナ危機においてイギリスは、自由と、ルールに基づく国際秩序の断固たる擁護者の立場を貫いている。イギリスは他国に先んじてウクライナに軍事アドバイザーや武器を送り込んだ。イギリスが供与した携行式対戦車システムやミサイルは、当初ロシアが首都キーウ(キエフ)や周辺都市を攻略しようとしていた「電撃攻撃」をウクライナ軍が阻止する上で効果的な役割を果たした。

当初の作戦に失敗したロシアが戦略を変更するなか、イギリスは戦争の次の段階に対応した軍需品の提供を進めている。加えて財政支援や医療援助、さらにはロシアに対する明確な非難も続ける。

悪化させず責任逃れもせず

もちろん、こうした行動においてイギリスは、他国と足並みもそろえている。主にアメリカとだが、EUやNATO、さらに広範囲の国際社会とも連携して行っている。にもかかわらず、ロシアがジョンソンと英閣僚らを入国禁止にしたことからも分かるように(他の欧州諸国首脳らにそんな措置は取っていない)、ロシア政府はイギリスに特別強い怒りを向けているようだ。だがイギリスの人々は「自分たちが正しいことをしている」証拠だと受け止めている。ブレグジット(EU離脱)のイギリスはナショナリスト的で「国際社会に背を向けた」という主張はもはや通用しない。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスタンブール市長の弁護士、トルコ当局が拘束=野党

ワールド

米司法省、スタンフォード大など調査 入学選考の人種

ビジネス

中国国家主席、外国企業幹部と会談 投資呼び込みへ

ビジネス

シティ、銅価格見通し引き下げ、25%の米関税を第2
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影された「謎の影」にSNS騒然...気になる正体は?
  • 2
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 3
    地中海は昔、海ではなかった...広大な塩原を「海」にした、たった一度の「大洪水」とは?
  • 4
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    「マンモスの毛」を持つマウスを見よ!絶滅種復活は…
  • 8
    「完全に破壊した」ウクライナ軍参謀本部、戦闘機で…
  • 9
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 10
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 3
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 4
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 5
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 8
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 9
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 10
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story