コラム

レジ袋有料化はイギリス人の環境意識を覚醒させた

2020年07月08日(水)14時10分

「使い捨てプラスチック」はイギリス人がよく口にする流行語になった。なぜ冷水機のところにプラスチックコップなんて置くんだ、と社員は会社に意見するようになった。紅茶のティーバッグにプラスチックが含まれている(破れにくくする効果がある)ことが分かると、メーカーに使用中止を求めるようになった(ティーバッグもまた、イギリス人が大量に消費する物の1つだ)。エリザベス女王もこの方策に賛同し、18年にバッキンガム宮殿でプラスチック製品の使用を禁止するよう指示を出した。

僕はいつも、たいていの人よりレジ袋を使う量はずっと少なかったけれど、それでも1年に10や12はもらっていたと思う。でもレジ袋有料化が始まってからは、料金を払って手に入れたのはただ1度きりだ(散歩の途中で、店に行くつもりじゃなかった)。イギリス全体としては、レジ袋の使用は85%削減された。これをさらに進めるため、現在は除外されている小規模小売店でもレジ袋有料化を適用することが計画されている。

想定外だった結果の1つは、海辺の町でビーチの投棄ゴミの量が著しく減ったと報告されていることだ。プラスチックが海に行き着くことが周知され、人々はビーチでごみの扱いに以前より気を配るようになった。

当然、前述の友人は、自分の正しさが証明された今のこの状況を見て大喜びしているだろうと思いきや、彼は思いのほか複雑な心境だった。プラスチック離れは他の資源を犠牲にする。紙コップは木から作られるし、ガラス製ボトルや金属製容器はプラスチック製より重いから長い距離を輸送する際に二酸化炭素排出量を増やす......。自動車製造でプラスチック製部品は重量を減らす役目もする。プラスチックは耐久性に優れていて、耐用期間が短い他の素材よりは製品の原料に適している場合もある。

だから結局、友人が言っていたのはプラスチックの使用では賢い選択をすべきということだったのだ。そのためにレジ袋有料化は大きなステップだったが、道のりはまだまだ終わらない。

<本誌2020年7月14日号掲載>

【関連記事】「15年後にガソリン車ゼロ」イギリスの本気度

20200714issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年7月14日号(7月7日発売)は「香港の挽歌」特集。もう誰も共産党を止められないのか――。国家安全法制で香港は終わり? 中国の次の狙いと民主化を待つ運命は。PLUS 民主化デモ、ある過激派の告白。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイ、米関税で最大80億ドルの損失も=政府高官

ビジネス

午前の東京株式市場は小幅続伸、トランプ関税警戒し不

ワールド

ウィスコンシン州判事選、リベラル派が勝利 トランプ

ワールド

プーチン大統領と中国外相が会談、王氏「中ロ関係は拡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story