コラム

リフレ派が泣いた黒田日銀のちゃぶ台返し

2016年02月25日(木)18時00分

 ちなみに、日米欧の中央銀行の間では為替操作を意図してはいけないことになっていますので、表向きには今回のマイナス金利実施が円安を狙ってと日銀から公言されることはありません。それでも「追加金融緩和の政策手段が限られているとは考えていない」「あらゆる手段を講じる」と先日の会見でも仰っていましたので、引き続き円安を望むということなのでしょう。ただし、果たして一中央銀行の為替政策が有効なのかどうか。

 ところで、日銀の暗黙の円安政策を牽制してか、次期大統領候補のヒラリー氏から早速、日本に対しても為替操作国としての名指しがありました。日本が自国の輸出を有利にするため為替を操作しており、大統領に就任すれば「断固たる措置をとる」とも。そう言えばヒラリー氏はTPPについても為替条項が盛り込まれなかったことから反対しています(為替条項があれば各国の利益誘導的な為替操作を防ぐことになります)。次は4月に公表となる米財務省の為替報告書でも日本について踏み込んだ表現になるのかどうか、今から要注目です。同報告書で為替操作国に認定された場合ですが、2国間協議が実施されるほか関税による経済制裁の可能性、米国だけでなく各国から通貨切り上げ圧力が強まることもあります。

 中国は毎度のこととして、日本の名前がここまではっきりあがるのは久しぶりのことです。(去年の為替報告書でも多少そうした気配はあしましたが)これだけ強い反発がここに来て米国から生じている非常に大きな背景にはいよいよ開始となった米シェールガス輸出があるでしょう。今や米国の経済構造まで変えるシェールですが、日本への輸出が本格化するのは2017年です。

 米国の輸出にとって都合がいいのはドル安。これまでの数年のステージでドル高を伴いながら投資資金を呼び込み、目処が立った段階でシェールの輸出とともにドル安政策を強いてくるのは戦略国家の米国としては当然のこと。これは何も怪しい相場予想や占いをしているわけではなく、米国のシェールの動きからこうした動向を察知すべきではないですか、という話に過ぎません。ドル安政策に転換するやもしれぬ米国に対抗して日本側がドル高円安を維持する力量や、そもそも(国際貿易の公平性や国内の実体経済への影響を鑑みて)必要があるのか。

「市場経済においては為替レートは政府が決められるものではありません」――少なくとも人為的に操作された部分については今後様々な圧力がかかってくるのではないでしょうか。あらためて、何のための量的緩和の継続なのかを考えるべきステージにあると思われます。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

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