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反ワクチン本の驚くべき「テキトー」さ
HISAKO KAWASAKIーNEWSWEEK JAPAN
<日本でコロナワクチン接種は順調に進んだが、反ワクチン本ビジネスもそれなりに盛り上がった。その代表作の1つ『コロナワクチンの恐ろしさ』の驚くべきいい加減さが今、白日の下に>
今回のダメ本
『コロナワクチンの恐ろしさ』
高橋 徳、中村篤史、船瀬俊介[著]
成甲書房
(2021年7月30日)
日本の新型コロナワクチン接種状況を見る限り、科学者、医療従事者、政治の呼び掛けの圧倒的勝利と言っていいだろう。大手メディアも含めて、ワクチンに対して疑義を呈するような報道はほとんどなく、11月に入った時点で少なくとも1回目の接種を終えた人は人口全体の8割弱、ハイリスクと言われる65歳以上の高齢者に限れば90%が2回目の接種を終えた。医療者の中には「日本はワクチンへの信頼性が低い国」という論調が出ていたが、ふたを開けてみれば大多数の人々はなんの問題もなくワクチン接種を希望し、あっさりと打ち終えた。
得られた教訓は、政治が強力なリーダーシップで接種を進めれば多くの人は呼び掛けに応じるというものだ。その中で気になるとすれば反ワクチン本ビジネスの隆盛である。ワクチンを打たない層は少数派ではあるが、人口の1〜2割はいる。この層にきちんとリーチして、その中の何人かに1人が1000円前後の本を買えば、ヒット作が生まれ、稼げる。本書もその中の1冊だ。
筆者の1人はリベラル雑誌「週刊金曜日」発の大ヒット作『買ってはいけない』でおなじみ、船瀬俊介氏である。最近も相変わらず精力的に、アメリカの不正選挙を告発したり、彼しか知らない「真相」を書いたりしているようだ。本書も検証不可能な陰謀論とトンデモ仮説のオンパレードだ。
船瀬氏は冒頭からエイズ、鳥インフルエンザ、SARSは全て生物兵器であり、あらゆるワクチンも生物兵器と断言し、ワクチンを打つと9週間後に新型コロナウイルスの培養器になり、殺人マシンになるという説を紹介する。
まともに論評するのもばからしくなってくる。だが、彼が出版を続けていることもまた事実。これも社会の一側面だ。頭を抱えたくもなるが、この手の陰謀論をなくすことはできない。この間、社会科学分野の研究で繰り返し確認されてきたのは「陰謀論を信じる人は特異な人ではない」「人は見たい現実を見る」という当たり前の事実だから。
その意味では、新型コロナワクチンで得られた教訓に、陰謀論と対抗する希望が宿ると言えるだろう。一部残る反ワクチンビジネスの影響を少なくするために必要なのは、論駁に加え、ワクチン接種を希望する人を増やすための愚直な呼び掛けと体制整備であることを教えてくれたのだから。ところで、本書には衝撃の後日談があった。版元である成甲書房のホームページにはこうある。
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