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バカ売れ『反日種族主義』の不可解な二枚舌
Satoko Kogure-Newsweek Japan
<ベストセラー『反日種族主義』が批判しているのはあくまでも韓国国内の「進歩派」であり、「反日」政策──とされるもの──ではない。>
今回のダメ本
売れている。都内の地下鉄に大々的に掲げられていた車内広告によると、既に40万部を超えたという。ベストセラーになった理由は、ちまたで指摘されるような「日本人の嫌韓感情の高まり」も大きな要因だろうが、それだけではないだろう。
「韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権はとてもおかしな政権であり、わが日本に対してけしからんことばかり言っている。まともな韓国人が『反日』を批判しているそうだから、読んで留飲を下げよう」という政治的志向の読者層は既に取り込んでいるだろう。
数字を押し上げているのはおそらく、かつて私が本誌の特集「百田尚樹現象」でいくつかのデータから指摘したように、「売れているから買ってみよう」という層だ。さて。私がこの本で注目したいのは、誰がこの本を日本に持ち込んだ「仕掛け人」なのかという問題だ。
編者たちは、日本のネット右翼のように「日本の朝鮮支配で良かったことはたくさんあった」という類いの主張はしていない。同書の帯に小さな字で書かれているように、「日本支配は朝鮮に差別・抑圧・不平等をもたらした」ことは認めている。
彼らは、韓国初代大統領で強硬な反日本主義者として知られる李承晩(イ・スンマン)の一生を「再評価」し、「理念と業績」を知らしめる機関であるという李承晩学堂から、同書の韓国語版を企画・刊行している。
表紙で反日種族主義を「日韓危機の根源」とまでうたい上げながら、神戸大学の木村幹教授(朝鮮半島研究)が本誌ウェブ版で指摘したように、同書は反日政策を取った李政権を批判しない。
「慰安婦問題」にかなりの分量を割き、「反日種族主義の核心」とまで言いながら、慰安婦問題であれだけ日本と問題になった朴槿恵(パク・クネ)政権は批判しない。
要するに、編者たちが積極的に支持してきた韓国保守派はかなり甘く査定されている。この本が批判しているのはあくまでも韓国国内の「進歩派」であり、「反日」政策──とされるもの──ではない。その論理は「控えめにいってもダブルスタンダード」(木村)である。
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