コラム

アメリカが「ロシア化」3つのパワーを解放し、世界をリードし続ける

2025年01月29日(水)14時38分

1つ目のパワーは「プラットフォーム」だ。

ネットのプラットフォームはアメリカ企業が寡占している。


SNS、クラウドサービスがその典型だ。どちらも世界各国で使用され、それぞれの国の社会、文化、そして産業の基盤のひとつになっている。インフラと言ってもよいだろう。

日本でも多くのサービスがAmazonのAWSやマイクロソフトのAzureを利用している。これまでアメリカ政府はこれらのパワーを活用することはなく、逆に自由競争や社会への悪影響を抑えるために規制していた。民主主義的価値観に則って封じていたのだ。

2つの目のパワーは、「反主流派の力」だ。

陰謀論、白人至上主義、極右などの反主流派はアメリカから海外に広まっている。

混乱を輸出しているようなもので、もしアメリカでなくロシアだったら、世界中から非難されていただろう。

中露は各国の反主流派を扇動し、活性化させることに躍起になっているが、アメリカは実態として中露以上に世界各国の反主流派を取り込んでいるのだ。

たとえば2022年にドイツでクーデター未遂事件を起こしたグループはQAnonの影響を受けていた(ドイツはQAnon信者数世界第2位)。アメリカの白人至上主義グループは世界各地に活動を広げている。

だが、これまでアメリカ政府は非民主主義的な反主流派を規制し、抑制してきた。トランプは数少ない扇動者であり、彼らの力を意図的に利用することに成功した政治家と言える。

余談になるが、民主主義国で反主流派の影響力が高まっているのは、格差の拡大と富裕層の権力の集中が影響している。

たった10%の富裕層が世界の全資産の76%を保有しており、世界人口の半分は2%しか保有していない。さらにほとんどの政党はこうした貧困層を支持母体としなくなった。

不可視化された層が増加し、反主流派となり、近年それを支持母体とする政治家やインフルエンサーが台頭した。

コロナ禍において、反主流派が反ワクチンなどの陰謀論を投稿し、それを中露が拡散、テック・オリガルヒがアルゴリズムで露出を増やし、広告報酬を支払うことで反主流派、修正民主主義、テック・オリガルヒが結びつき、急速に反主流派は力をつけた。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

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