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我々の世界はSFよりもSF......生成AIがスクープを連発する新しい情報エコシステム
ディストピアのように聞こえたら、それは私の伝え方がよくなかったのだろう。現状のメディアにも多くの問題があり、生成AIがもたらす新しい情報エコシステムの方がよくないとは一概には言えない。メディアは恣意的に取り上げるニュースの内容を決定するが、その決定プロセスに透明性がないことは以前から指摘されていた。大手SNSプラットフォームは透明性レポートを公開しているが、既存メディアはそのようなことをしていない。
そのためメディアは取り上げないことによって特定の層を社会的に存在しないもの=不可視の状態においやることができる。「偽情報よりもメディアの偏りの問題の方が深刻」という声もあるくらいだ。プリンストン大学ESOCの研究では統計的に既存の大手メディアにはかなり偏向があることが確認されている。
以前の記事で紹介したように、共感は政治的・社会的リソースであり、主としてマスメディアによってアイデンティティ(性別や人種、性的嗜好など)ごとに配分されるのだ(「データをいろいろ見てみる」氏の「共感格差」より)。
メディアに発見されて取り上げられるまで、事件や事故は「ニュース」ではない。メディアは実はニュースを作っているのである。どこよりも早く大きな衝撃を与えるニュースを作れることはメディアにとって重要だ。
人間向けのインタフェースを介して強力な取材力を得た生成AIは無尽蔵のニュース生成システムであり、そのニュース生産能力は既存のメディアの比ではない。スクープを連発し、時には人の命を救ったり、大きな事件や事故を未然に防ぐこともあるだろう。
だが、生成AIは人間がすぐには判別できない誤りを犯し、人間はそれを信じてしまうことが多い。つまり冤罪と誤報を量産し、社会をカオスに陥れる可能性も低くない。だが、うまくいけば莫大なアクセスを稼ぐビジネスになる可能性も孕んでいる。いま始めれば世界最大のニュース企業を作れるかもしれないのだ。やらない手はない、と考える人は少なくないだろう。
そして、生成AIが取材して作り出したニュースのいくつかは社会に影響を与え、新しい事件を起こすフィードバックを生む。取材力を持ったおかげでリアルの社会への影響力は増加する。
いまだにファクトチェックや情報リテラシーの重要性を説いている記事をよく見かけるが、現実ははるか先を走っている。我々の世界はSFよりもSFなのだ。
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