コラム

我々の世界はSFよりもSF......生成AIがスクープを連発する新しい情報エコシステム

2023年08月04日(金)15時30分

生成AIによって情報エコシステムは次の段階に移る

現在の情報エコシステムにおいてコンテンツの多くは人間が作っているため生産量や速度の制限がある。AIは人間が作ったコンテンツの中からお眼鏡にかなったものを選択して拡散しているにすぎない。それでも大手メディアの発信量と速度、ファクトチェックやリテラシーによる確認の量と速度を凌駕しているので、デマや陰謀論は後をたたずに拡散している。

生成AIがネットのコンテンツ生成に利用され始めた場合、その生産量と速度はもはや手が付けられない状態となる。すでに生成AIで作ったコンテンツのサイトが生まれ、そこにグーグルなどのアドテックの広告が掲載されている。情報エコシステムへの組み込みは始まっている。

生成AIによって大手メディアの発信量も増加するし、AIを利用すればファクトチェックも加速すると考える人もいるかもしれないが、そうはならないだろう。なぜなら前述のようにAIは間違うことがあるので人間が確認しなければならない。さらに真偽判定においてはAIよりも人間の方が正確という調査結果もある。

だから大手メディアの発信量は増えるだろうが、真偽判定を人間が行う以上、時間はかかる。さらに発信量が増えた分、確率的に誤報も増える(人間がチェックする以上、避けられない)。また、人間発注したコンテンツもライターや研究者、イラストレーターがひそかに生成AIを利用することで生成AIによるものが増加する。

その一方で広告目当てのコンテンツや陰謀論のコンテンツは間違っていても問題ない。現在のAIがもっとも得意とするところだ。その結果、情報エコシステムは生成AIが作った莫大なコンテンツであふれることになる。

取材力を持った生成AIによるスクープの連発

ベリング・キャットのエリオット・ヒギンズはトランプが収監され、脱獄するまでの画像を生成AIで作ってネットに流して話題となった。そこから数歩進んだ新しい情報エコシステムが生まれる可能性がある。

生成AIは「取材力」を持つことでさらに強力になれる。生成AIは人間の言語や画像、動画を理解できる。したがって人間向けのインタフェースを持つシステムや装置に接続すればそこから情報を入手できる。相手のシステムにこちらが生成AIであることを知らせる必要すらない。

たとえば衛星画像サービスにつなげて、ロシア軍の活動を監視することもできる。防犯カメラに接続すれば、犯罪の兆候を発見することもできる。犯罪発生予測も可能だ(もちろん、犯罪発生予測には多くの問題があるが、コンテンツとして需要はありそうだ)。天気予報なみに普及するかもしれない。投稿用のアプリを一般人に配布、衝撃映像を募集し、配信できるものを自動判別してアクセス量に応じた謝礼を送ることもできる。

人間にはとてもたちうちできない取材力と記事化能力を持つ生成AIでなければできない全地球的記事制作システムだ。テキストだけでなく、動画まで生成できるのも強みだ。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米中小企業、26年業績改善に楽観的 74%が増収見

ビジネス

米エヌビディア、株価7%変動も 決算発表に市場注目

ビジネス

インフレ・雇用両面に圧力、今後の指標に方向性期待=

ビジネス

米製造業新規受注、8月は前月比1.4%増 予想と一
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story