コラム

年内の台湾有事の可能性とは?──中国は必ず併合に動く、問題は日本に備えがないこと

2022年11月01日(火)17時40分

日本の備えはできているのか?

台湾有事に際して、日本が巻き込まれる可能性についても議論もよく目にするようになってきた。専門家ではない筆者でも地図を見れば、台湾と与那国や石垣島がどれほど近いかよくわかる。日本よりの台湾の海域、空域で戦闘が起きた時に、平和でなにも起きないとは思えないほど近い。さらに日本は台湾を支援するだろうし、台湾を支援するアメリカも支援する。攻撃の口実には事欠かない。

台湾有事の際に軍事介入することをバイデンは明言したが、中間選挙で共和党が多数となった場合、すぐに実行できるか怪しい。当初はウクライナの時と同じように兵器を含めた物資の支援に留まる可能性も高い。

ウクライナ侵攻でいち早くウクライナにスターリンクを提供したイーロン・マスクのテスラにとって中国は重要な生産拠点かつ市場となっている。ウクライナへの継続的なスターリンクの提供に資金面での難色を示したイーロン・マスクが中国の生産拠点と市場を失うリスクを冒せるかは微妙だ。つい先日、イーロン・マスクはフィナンシャル・タイムズのインタビューで、台湾の問題は平和的に解決すべきであり特別区(中国の一部となって一国二制度とする)にすればいいと発言したほどに台湾を軽んじ、中国を重んじている。温度差はあっても他のアメリカ企業も同様だろう。アメリカの大手企業にとって、中国を失うことは大きな痛手なのだ。

アメリカやEUはロシアにそうしたように、中国にも経済制裁を行う可能性もあるが、おそらく実効性の乏しいものにしかならない。なぜなら、経済の相互依存度がロシアよりもはるかに高いからだ。たとえば、アメリカが輸入する精製レアアースの80%を中国が占めている。戦略的にこの依存を減らそうとしているが、数年で中国なしで済むレベルになるとは思えない。

アメリカ、EU、アメリカ大手企業がどこまであてにできるかわからない、というのが実情なので、ウクライナほどの支援は見込めない可能性が高いと考えた方がよいだろう。有事の際に中国と直接対峙するのは、台湾とほぼ確実に巻き込まれる日本になる(もしかしたら韓国も)。

日本は台湾有事や台湾併合への備えはあまりできていないように見える。たとえ平和的な併合であっても、その影響は大きい。その危険性を国民が共有した認識を持っている状態ではない。中国が台湾を併合する可能性のある日は数年後にせまっている。まさに、いまそこにある危機なのだ。もちろん、可能性のひとつにすぎないが、備えておくべき可能性であるのは確かだ。

時事通信の記事は危機感を持ってもらうためには効果があったかもしれないが、その一方で狼少年的でもある。何度も狼少年をやり、そのたびに台湾有事が起こらないと、誰もメディアを信用しなくなってしまう。正しく危機感を共有するための努力が必要だ。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

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