コラム

ロシアが情報戦で負けたという誤解

2022年07月06日(水)17時20分

はっきりとロシアを非難している国、人口は多くない...... REUTERS/Anton Vaganov

<ロシアは情報戦で負けた? ロシアが発信するメッセージの浸透力は国際世論を形成するメディア並に拡大している>

先日、ウクライナで繰り広げられている情報戦を中心にまとめた『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)を上梓した。その中で、ロシアが行っている情報戦、デジタル影響工作について分析を行った。最近の新しい情報を反映して、その部分をご紹介したい。

実は多数派ではなかったウクライナ支持

ウクライナ侵攻に当たってロシアがさまざまな偽情報を流していたことをご存じの方も多いだろう。それらはすぐに検証され、ウソを暴かれ、メディアなどで指摘された。世界に広がった反ロシアの声は今でも衰えていない。2022年3月初旬までは、「ロシアは情報戦で負けた」、「デジタル影響工作は成果をあげなかった」との認識に基づく記事が多くのメディアに掲載された。国際世論は侵攻当初からロシアを非難し、ウクライナを支援してきたのだ。日本に住む我々の多くもそう考えてきた。

『いいね!」戦争 兵器化するソーシャルメディア』の著書で知られる国際政治学者P.W.シンガーは3月12日にウクライナの情報戦での勝利を宣言した。日本の朝日新聞は同氏にインタビューした記事で、同じくウクライナの情報戦での勝利を報じた。

しかし、国際世論とはなんだろう? 世界の多数の人々が支持する主張のことだろうか? 下の3つの世界地図をご覧いただきたい。図1は国連人権理事国資格停止で賛成票を投じた国、図2は対ロシア経済制裁に参加している国、図3はゼレンスキーが演説した国が緑色に塗られている。緑色はすなわちロシア非難あるいはウクライナ支持を表していると考えてよいだろう。

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思ったより少ないし、偏っていることがわかる。2021年の世界の人口は、おおよそ80億人弱、人口の多い上位10カ国で半分以上の46億人を占め、1位と2位の中国とインドだけで35%を占めている。上位10カ国の中で国連人権理事国資格停止で賛成票を投じた国、対ロシア経済制裁に参加している国はアメリカだけである。アメリカの人口は約3億人なので、それを引いても上位10カ国だけで世界人口の半分以上となり、国単位の人口で見た場合、ロシアを非難していない国の方が多いことがわかる。明確にロシア支持を訴えていないためにわかりにくくなっているが、はっきりとロシアを非難している国および人口は多くないのである。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

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