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中国の知財ハッキングやロシアのネット世論操作にアメリカがうまく対処できない理由
アメリカの先を行くロシアと中国
Foreign Affairsの特集では、アメリカが取るべき対策などをあげているが、アメリカが手をこまねいている間も中国やロシアは進化している。NATO StratComによると、もともと中国やロシアはサイバー空間を軍事および非軍事を含めた総合的な戦略の一部を占めるものと認識しており、「情報対抗」(information confrontation)=統合的な情報戦としてとらえていたという。ロシアの情報対抗には、次の3つが含まれている。
・Active measures(aktivnyye meropriyatiya)
他国の政治的状況に影響を与えることを目的とした活動であり、フェイクニュースや脅迫など違法な活動も含まれる。
・反射的コントロール(Reflexive control)
情報操作によってターゲットを特定の行動に誘導することをさす。オープンな民主的情報空間はこの攻撃に脆弱である。
・マスキロフカ(maskirovka)
存在しない部隊などを存在すると敵に信じさせるもので、隠蔽や情報攪乱などが行われる。
そしてロシアは積極的に私企業、NPO、サイバー犯罪グループなど非国家アクターの各種プロキシを駆使している。以前、ご紹介したアメリカ国務省グローバル・エンゲージメント・センター(GEC)の資料にはロシア内外で活動するプロキシが紹介されている。
中国とロシアで注目すべき進化のひとつにネットの閉鎖化がある。以前、ご紹介したように両国は自国のネットを閉鎖することで、国家単位の非対称戦略を実現しようとしている。非対称というのは、攻撃と防御に要するリソースが同じではないという意味である。サイバー空間においては攻撃側に必要なリソースに比べて防御のために必要なリソースの方がはるかに大きいという、攻撃者絶対有利の非対称性がある。閉鎖ネット化した国家の方が、オープンなネットの国家よりも有利となる非対称性が実現する。この非対称性はサイバー攻撃やネット世論操作による他国への攻撃、自国の防御の両方で有効だ。
中国は早い時点で閉鎖ネット化(悪名高いグレート・ファイアウォール)を進め、ロシアもそれにならっている。さらにそれだけではなく、これまで「自由で開かれたインターネット」を標榜していた各国も閉鎖化の傾向を強めている。オープンなネット環境を維持することは安全保障上のリスクになりかねない状況が生まれている。
閉鎖ネット化ではアメリカは中国やロシアはもちろんそれ以外に国にも遅れている。閉鎖ネット化が望ましいかどうかは別として、サイバー空間における防衛に有効であることは確かなので閉鎖ネット化しないならば、それと同等以上の防御を行わないと防衛面で不利になる。
ガラスの家のアメリカ
アメリカはガラスの家に住んでいることに、ようやく気がついて方向転換しようとしている。しかし、それは簡単なことではない。アメリカがこの戦いの本質をとらえることも対処することには課題が多い。アメリカがロシア化が進んでいることも見落とせない重要なポイントだ。アメリカがロシアのような権威主義国家になるリスクが顕在化している。Foreign Affairs2021年11月/12月号では、アメリカとロシアの政治の方向性が同じになったことを指摘して注目されている。
以前と異なり、現在の民主主義と独裁主義は見かけ上区別がつきにくく、境界が曖昧なため移行はシームレスに可能でわかりにくい。為政者が民主主義の理念を口にし、選挙を実施していれば民主主義国としての体裁を整えられる。世界中でこの移行は進んでおり、世界でもっとも多いのは選挙独裁制(形式上選挙は行うが、実態は独裁)となっている。アメリカが選挙独裁国家に変わるハードルは低い。もちろん、そうなってもプーチンと同じように、アメリカと同盟国は独裁であることを認めないだろう。
アメリカが閉鎖ネット化を進めることは民主主義の理念である自由や権利と相容れない部分がある。しかし、アメリカが選挙独裁制に移行していれば話は簡単だ。しかし、アメリカが選挙独裁制になり、中国やロシアと同様の閉鎖ネット化によってサイバー空間の防御を固めて優位に立った時、それはアメリカのサイバー戦略の勝利と呼べるのだろうか? それともアメリカの民主主義の敗北と呼ぶべきなのだろうか?
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