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中国の知財ハッキングやロシアのネット世論操作にアメリカがうまく対処できない理由
Foreign Affairsの特集記事のひとつ「The End of Cyber-Anarchy? How to Build a New Digital Order」では、こうした非国家アクターは18世紀の私掠船(しりゃくせん)のように、やがて国際的に禁止されると予想している。私掠船とは、正規の軍隊ではないが、国家から敵国の船舶への攻撃や略奪を認可された船のことで、その後国際法の整備が進みパリ宣言によって禁止された。
私見であるが、サイバー空間は非対称であり、攻撃者が絶対有利かつ正体を隠すことが容易だ。私掠船と異なり、密かに活動を継続しやすい。たとえば、国際サイバー犯罪グループのさきがけとなったRBN(ロシアン・ビジネス・ネットワーク)は国際的な規制やロシア政府の取り締まりが厳しくなった後、世界に拡散した。
非国家アクターはハイブリッド戦あるいは超限戦における重要なアクターとなっており、簡単にその影響が消えることはないと考えた方がいいだろう。最近、アメリカは増加し、深刻化するランサムウェアの脅威に対抗するため軍が対応するようになったが、その内容を見る限りまだ対症療法の域を出ていない(New York Times)。
・情報戦の軽視
アメリカにおける2012年から2014年にかけての体制整備には、情報戦も盛り込まれていなかった。その結果、ロシアのネット世論操作を使った大統領選などへの干渉を許し、ネットを活用するISISなどへの対応が遅れることにつながった。
特集では触れられていないが、ロシアや中国とならぶネット世論操作先進国であるアメリカの防御面でも遅れは、国内でも問題を生むことになった。ロシアはウクライナに介入した際のアメリカの反応を見て、アメリカ大統領選への干渉をしても報復されることはないと確信したと記事は解説している。大統領選は2016年だが、実際にはその前に起きたBLM(Black Lives Matter)運動に干渉したり、大統領選の情報工作で用いるための偽のニュース媒体などを準備していた。
個人的に問題と思うのはSNSを放置したことだ。フェイスブックを始めとするSNSが選挙結果に影響を与えることは2016年以前からわかっていた。選挙結果に有意な影響を与える私企業のサービスに対して、法的制約がなければいいように利用されるのはわかりきっている。当然のようにロシアはネット世論操作に利用した。さらにSNSは陰謀論や反ワクチンの温床となってアメリカ社会に混乱をもたらし、2021年1月6日にはアメリカの議事堂に暴徒が押し寄せる事態となった。
そして、以前の記事でご紹介したようにSNSおよびネットサービスは陰謀論やデマサイトのサービス基盤と収益源を提供しており、産業として根付くもとを作った。情報戦、ネット世論操作への警戒しなかったために短期間でアメリカ社会は汚染されることになった。
・「信用」という脆弱性の放置
特集記事のひとつは、アメリカの最大の脆弱性として「信用」をあげている。国家、経済、貨幣などに対する信用が失われれば社会の基盤が破壊されるが、信用の破壊に対する有効な防御策は実施されていない。ランサムウェアや知財剽窃などの小規模で反復される攻撃は、直接壊滅的なダメージを与えるわけではないが、じわじわと信用を毀損してゆく。信用が破壊されて社会が壊れるのは政治、金融、安全などさまざまな分野にわたる。高い確率で研究開発の成果が盗まれるとわかっていたら企業は開発に投資しなくなり、投資家も研究開発投資に積極的な企業への投資を渋るようになるだろう。繰り返し仮想通貨が盗まれ、取引所から個人情報が漏洩するようになれば仮想通貨の取り付け騒動が起きても不思議ではない。
これまでのアメリカの対策は、侵入の阻止に焦点が当てられていたが、侵入してくる攻撃に耐えられるシステムを構築することがより重要なのだ。しかし、信用の防御方法は確立されていない。
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