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戦後70年談話報告書に学ぶ平和主義の歩み
2015年8月6日の午後、戦後70年談話に関する有識者会議「21世紀構想懇談会」の座長である西室泰三日本郵政社長と、座長代理である北岡伸一国際大学学長が、首相官邸で安倍晋三首相に報告書を提出した。この報告書は、半年ほど前の2月25日の第1回会合において、安倍首相が懇談会で議論する論点として提示した5つの点を中心にして、懇談会としての提言を示すものである。
その内容は、想定されていたよりも踏み込んだ記述が数多く見られる。そこでは、「日本は、満州事変以後、大陸への侵略を拡大し、第一次大戦後の民族自決、戦争違法化、民主化、経済発展主義という流れから逸脱して、世界の大勢を見失い、無謀な戦争でアジアを中心とする諸国に多くの被害を与えた」と書かれている。また、「植民地についても、民族自決の大勢に逆行し、特に1930年代後半から、植民地支配が過酷化した」と述べられている。これまでにない、強い表現だ。日本国内では一部の論者が、先の戦争が「アジア解放」を目的としたものであったと語るが、この報告書はそのような立場を明確に拒絶する。報告書では、戦争は「自存自衛の名の下に行われた」とはっきりと書かれており、「その自存自衛の内容、方向は間違っていた」と述べた上で、「アジア解放のために、決断をしたことはほとんどない」と言及している。そして、「20世紀後半、日本は、先の大戦への痛切な反省に基づき、20世紀前半、特に1930年代から40年代前半の姿とは全く異なる国に生まれ変わった」という。村山談話で述べられていた「先の大戦への痛切な反省」という言葉を使うとともに、さらによりいっそう強い「全面的な反省」という言葉を使い、戦後の日本が平和国家としての道のりを歩むその経緯を描いている。
村山談話が発表されてからの20年間に、戦争の時代の歴史を再検討する歴史研究が飛躍的に前進した。多くの優れた歴史家が、従来非公開であったものや使われていなかったものも含めて、幅広い史料にあたって斬新な研究成果を発表してきた。「21世紀構想懇談会」には、そのような歴史研究を牽引してきた優れた研究者が多く含まれ、幅広い分野における代表的な学者が加わっている。それゆえに、活発な議論が展開されたことは想像に難くないが、結果として研究者と一般国民の多くが同意できるような、バランスのとれた、踏み込んだ記述が目立っている。他方で、その議論が中道的な立場に立っているために、イデオロギー的に極端に右側に立つ論者や左側に立つ論者は批判を加えるかもしれない。
さて、この報告書の論調において特徴的なことの1つは、世界史的な視野に立って日本の歩みを位置づけていることであり、またそのような世界史的な視点からの戦争違法化の歴史と、戦後の日本の平和国家としての歩みを、重ねて論じていることである。これは新しい歴史の語り方ではないか。
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