コラム

中東各国のポケモンGO騒動あれこれ

2016年07月25日(月)06時50分

 他方、サウジアラビアでは、前述のように、ポケモンGOのあつかいは、むしろ治安面や情報面での懸念が中心であった。しかし、7月20日になってようやく宗教界からの明確な判断が聞こえてきた。サウジアラビア最高宗教権威である最高ウラマー会議のメンバー、アブダッラー・マニーァが同日付のオカーズ紙に対し「最高ウラマー会議がポケモンGOで遊ぶことは許されないと決定した」と述べたのである。彼によれば、「(ポケモンGOは)国家安全保障にとって脅威である。それは、秘密の場所を暴露することを目的としており、そのことは祖国に対する裏切りとみなされる」のだという。

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最高ウラマー会議のある科学研究・ファトワー庁のウェブページ。今月のファトワーの一番上にあるのが「ポケモン・ゲーム」

 オカーズの記事ではマニーァ師の発言につづいて、2001年のファトワーに関する説明が出ており、最高ウラマー会議のウェブサイトでも、この古いファトワーの原文フルテキストが投稿された。これを受け、アラビア語、英語、日本語を問わず、最高ウラマー会議がポケモンGOについて新しいファトワーを出したと報じたところもあったが、それは明らかに間違いである。同会議も新たなファトワーを出していないと否定している。

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ポケモンGOをハラームだとするファトワー発出を否定する最高ウラマー会議のツイート

 最高ウラマー会議はツイッターでゲームの新版については新たなファトワーが必要だと述べているが、オカーズの記事にある最高ウラマー会議の「決定」がそのファトワーなのか、はっきりしないのだ。そうしているうちに、サウジアラビアにおけるポケモンGOファンはどんどん増殖している。15年前の子どもというと、ちょうど今、20代か、30代。まさにノスタルジアを含むポケモンGO世代である。かつて奪われたおもちゃを、彼らはふたたび奪われてしまうのだろうか。それとも何らかの手段で取り戻すことができるのだろうか。SNSという新たな武器を擁する若者たちの次の一手を見守りたい。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

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