コラム

中東各国のポケモンGO騒動あれこれ

2016年07月25日(月)06時50分

Mo Vlogs-YouTube

<ガザやシリアの胸を打つ写真から、治安面・情報面における各国当局の懸念、ファンたちの熱狂、宗教判断をめぐる混乱まで、まだ公式配信されていない中東地域でも「ポケモンGO」は騒動を巻き起こしている> (写真は、ランボルギーニに乗ってポケモン探しをするドバイの若者。画像を一部修正しています)

 前回このコラムで2001年のアラブ世界でのポケモン騒動について書いた。その直後、スマートフォンのゲームアプリ、ポケモンGOが米国等で先行配信され、世界中で大騒ぎになったのは、あちこちで報じられているとおりである。

 戦火絶えない中東も例外ではない。この地域ではまだポケモンGOは公式配信されていないにもかかわらず、早くもブームは過熱気味で、メディアでも連日、ポケモン関連の報道が盛りだくさんだ。15年前、ポケモンは、ギャンブルで、シオニズムで、多神教で、進化論支持者として、反イスラームのレッテルを貼られ、一部の国から駆逐されてしまった。はたして今度はどうなるのか。2001年と比較しながら、中東ポケモン事情を見てみよう。

【参考記事】米で大人気の「ポケモンGO」、ISISとの前線でプレイする猛者も登場

 2001年との圧倒的な違いはSNSの存在である。現在SNS上のアラビア語言説空間ではポケモンGO関連情報が増殖中で、たとえば、ツイッターには@PokemonGoArbとか、@PokemonGoArabicといったアラブ人のファンが作ったと思しき非公式アカウントが登場しており、アラブ諸国では7月26日に配信開始だのとまことしやかな情報を流している。

 また、YouTubeでアラビア語で「ポケモンGO」を検索すると、出るは出るは。ベイルートやリヤードやドバイ、はてはガザやダマスカスまで、人びとがポケモン探しに熱中しているのがわかる。だが、そこは中東。ポケモン騒動にも、地域をめぐる政治情勢が色濃く反映している。ガザの瓦礫と化した建物の横でポケモンGOに興じる少女たちの写真がツイッターなどに出回っている(下記)。これが本物かどうか、小生には調べるすべがないが、胸を打つものがある。また、7月19日付シャルクルアウサト紙に掲載されたダマスカスの少年たちのポケモン愛にもいじらしさを感じてしまう。正直なところ、この記事も眉唾だが、制裁や検閲下、ポケモンGOをダウンロードし、ポケモンを探しはじめたのはいいが、治安機関や軍関係施設のそばなど、あぶないところにばかりポケモンが現れるという、いかにもな記事だ(また BBCの記事"Pokemon's tears for Syria"もいい)。


今回も「ポケモンはユダヤの陰謀」論

 今回の騒動で目立つのはやはり陰謀論である。やはりといったのは15年前のポケモン騒動でも陰謀論が大きな役割を果たしたからだ。当時、ポケモンは日本語で「わたしはユダヤ人」だとか、「ユダヤ人になれ」を意味するとか、はたまた、ピカチューは英語で「Pick a Jew!」つまり、「(選挙で)ユダヤ人を選べ」の意味だといった反ユダヤ的な言説が流れていた。そのころ、わたしはカイロに住んでいたのだが、そこではこの種の話をよく聞かされたものであった。

【参考記事】
よみがえった「サウジがポケモンを禁止」報道

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

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