ニュース速報
ワールド

ドイツ財政規律緩和に国内反発、防衛費増支持も極右躍進

2025年03月25日(火)14時04分

ドイツ次期首相就任が確実視されるフリードリヒ・メルツ氏(写真)は、長期間維持されてきた政府の財政規律を緩める決断を下し、国際的に高く評価されるものの、国内では政治的反発の広がりに直面している。14日撮影(2025年 ロイター/Axel Schmidt)

Maria Martinez

[ベルリン 24日 ロイター] - ドイツ次期首相就任が確実視されるフリードリヒ・メルツ氏は、長期間維持されてきた政府の財政規律を緩める決断を下し、国際的に高く評価されるものの、国内では政治的反発の広がりに直面している。

メルツ氏が党首を務める保守政党キリスト教民主同盟(CDU)と姉妹政党キリスト教社会同盟(CSU)が長く財政拡張に厳しい姿勢をとってきただけに、メルツ次期首相が公的債務の拡大容認に舵を切ったことで驚きが広がった。

23日発表のINSAの世論調査によると、メルツ氏の財政拡張政策について全有権者の73%、CDU・CSU支持者の44%が「裏切られた」と感じていることが明らかになった。CDU・CSUの支持率は1ポイント下がって27%となり、一方で、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は1ポイント上がって23%を確保した。支持率の差は総選挙が行われた2月23日時点の8ポイントから4ポイントに半減した。

メルツ氏は選挙戦で「財政支出を拡大しない」と約束していたが、選挙後に方針を大きく転換した。

INSAのヘルマン・ビンクェルト代表は「CDU・CSUは公的債務対策に関する選挙前の公約を果せなかった。失望した一部の有権者が支持政党をAfDに切り替えている」と述べた。

連邦参議院(上院)は21日、財政規律を緩和する憲法改正案を承認した。数十年にわたる「財政保守主義」の放棄により、経済成長の回復を図ることに加え、トランプ米政権が欧州防衛に後ろ向きの姿勢を示すことを受けた新たな欧州集団防衛体制に向け、防衛費増加の道筋を付けた。

しかし、CDU支持者の間では賛否が真っ二つに分かれている。

第二次世界大戦末期の1944年生まれのユルゲン・フェダーセン氏は防衛費増額に伴う財政拡張を甘受した支持者の1人。過去50年間、CDUに投票し、アンゲラ・メルケル前首相が導入した「債務ブレーキ」の熱烈な支持者だった。

しかしフェダーセン氏は「米国がもう助けてくれないなら、自衛するしかない。ロシアは強硬姿勢を崩さないだろう。私は(ロシアのプーチン大統領)を信用していない」と話した。

調査会社フォルシュングスグルッペ・ヴァーレンのアンドレア・ヴォルフ氏はロイターの取材で、ドイツと欧州を取り巻く(安全保障への)脅威の環境変化を受けて、軍事力と防衛システム向け歳出増加に幅広い支持が広がっていると述べた。

だが、CDUの若年者支持層では財政拡張への反発が根強い。歳出急増の負担が自分たちに降りかかると恐れているためで、従来の財政政策でさえ既に住まいのステップアップに苦しんでおり、将来の年金受給や福祉給付が危うくなると警戒心が渦巻いている。

世論調査会社Forsaのマンフレッド・ゲルナー代表は「発足する連立新政権が再び国民の期待を裏切ることになれば、次の総選挙ではAfdがドイツ東部だけでなく全国で最大議席数を獲得する可能性を排除できない」と話した。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

野村証券、大卒初任給を30万円に引き上げ 三菱UF

ワールド

石破首相、米関税に「けんかして得るものない」 効果

ビジネス

来年度、物価目標達成が「目前」との前提で情報発信す

ビジネス

東京コアCPI、3月は2.4%上昇で予想上回る 生
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影された「謎の影」にSNS騒然...気になる正体は?
  • 2
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 3
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 4
    地中海は昔、海ではなかった...広大な塩原を「海」に…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    「マンモスの毛」を持つマウスを見よ!絶滅種復活は…
  • 8
    「完全に破壊した」ウクライナ軍参謀本部、戦闘機で…
  • 9
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 10
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 3
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 4
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 5
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 8
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 9
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 10
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中