アングル:トルコが欧州の重要なパートナーに浮上 ウクライナ安全保障枠組みで

欧州がウクライナを巡る停戦合意を見据え、域内の防衛強化とウクライナへの安全の保証を模索していく中で、安保体制再構築の潜在的なパートナーとしてトルコが浮上している。写真はトルコのエルドアン大統領(左)とポーランドのトゥスク首相。3月12日、トルコの首都アンカラで撮影。トルコ大統領府の提供写真(2025年 ロイター)
Tuvan Gumrukcu
[アンカラ 13日 ロイター] - 欧州がウクライナを巡る停戦合意を見据え、域内の防衛強化とウクライナへの安全の保証を模索していく中で、安保体制再構築の潜在的なパートナーとしてトルコが浮上している。
欧州諸国はトランプ米大統領が示す停戦計画に揺れている。トランプ氏は従来の米国の政策を覆し、ロシアを孤立から解いて和解の可能性を示す一方で、ウクライナのゼレンスキー大統領と散々な首脳会談を行った後に同国に圧力をかけ、欧米関係を危険にさらした。
欧州諸国は今、ウクライナの軍事能力を維持し、安全の保証を巡る合意を追求するとともに、米国抜きで域内の防衛力を強化しようとしている。アナリストは、この状況がトルコにとって、欧州との関係を深化させる貴重な機会をもたらしていると指摘する。トルコは法の支配を巡る論争や、ギリシャおよびキプロスとの海事問題、そして長らく暗礁に乗り上げている欧州連合(EU)加盟交渉など、欧州との間に数々の懸案事項を抱えているにもかかわらずだ。
トルコの元外交官で経済・外交政策研究センター(EDAM)のシナン・ウルゲン所長は「今日に至るまでトルコを排除できる余裕があると思っていた欧州諸国は、もはや排除できないことに気づきつつある」と語った。
ポーランドのトゥスク首相は12日、トルコの首都アンカラで同国のエルドアン大統領と会談。ウクライナの平和と地域の安定のために「トルコが最大限の共同責任を負う」という明確な提案を行ったと述べた。
ある欧州の上級外交官は、ウクライナの平和に何が必要かについて、トルコは「非常に重要な見解」を持っていると述べた。
エルドアン大統領はウクライナ戦争が始まって以降、ゼレンスキー大統領およびロシアのプーチン大統領との関係をうまく両立させてきたため「彼を仲間に引き入れるのは理にかなっている」と、この外交官は語った。
北大西洋条約機構(NATO)に加盟するトルコは、加盟国の中で2番目に大きな軍隊を有する。近年は自前でジェット機、戦車、航空母艦の生産を開始し、ウクライナを含む世界中に軍事用ドローンを売却している。同国の防衛産業の輸出総額は2024年に71億ドルに達した。
トランプ大統領が1月の就任以来、矢継ぎ早に会談や決定を行う中、複数の欧州諸国はウクライナを支援するための「有志国連合」の結成について協議。フランスは同盟国に「核の傘」を広げることを検討できると表明した。
トルコのエルドアン大統領とフィダン外相は、欧州は「持続可能で抑止力のある」方法でトルコを安全保障体制の再構築に組み込むべきだと述べている。
トルコ政府高官は、新たな欧州安全保障体制や、それに対するトルコの貢献の可能性についてはまだ明確な計画はないが、いくつかの段階を経て協力関係を進展させることは可能だと言う。
同高官は「トルコをプロジェクトに個別に組み込むのではなく、より全体的な方法でパートナーシップを模索することが(欧州にとって)より理にかなっているだろう。例えば、手始めに欧州平和ファシリティー(EPF)にトルコを含めることができる」と語った。EPFは平和維持能力の向上を目指すEUの基金で、ウクライナの支援に使われている。
<共通の利益>
トルコ国防省高官は、テロ対策から移民問題に至るまで、トルコと欧州の利益は共通すると指摘。トルコがEUの防衛努力に全面的に参加することは、欧州が世界的な役者となるのに不可欠だとし、トルコは新たな安全保障枠組みの構築に協力を惜しまないと言い添えた。
ただアナリストらは、トルコのロシアに対する姿勢が試金石として残ると指摘する。ロシアのウクライナ侵攻後、トルコは対ロシア制裁を拒否し、今なおエネルギー、観光、貿易においてロシアとの強力な結びつきを維持している。
EDAMのウルゲン氏は「トルコの前に立ちはだかる根本的な問題は、ロシアとの関係だ。なぜなら欧州の安全保障枠組みの本質は、ロシアを脅威と見なすことから始まっているからだ」と明言。トルコが安全保障においてより大きな役割を果たすには、ロシアに対する立場を選択する必要があると語った。
トルコはウクライナを軍事的に支援し、その領土保全と主権を支持する姿勢を示している。戦争勃発後の数週間には和平協議のホスト役を務めた経緯があり、今後もその役割を引き受けると申し出ている。一方で黒海の航行安全に関する協定の復活を目指している。
トルコ国防省筋は先週、停戦が宣言された際には、ウクライナにおける平和維持活動への貢献を検討する可能性があると述べた。
トルコ軍のギュラク参謀総長は今週パリで開催された欧州各国の軍参謀総長による会議に出席し、やはり平和維持部隊の派遣について協議している英国およびフランスの出席者らと協議した。
別の欧州外交官は、トルコがウクライナにおける安全の保証に参加することが不可欠だと言う。
外交官は「エルドアン氏の関心は今、われわれの方にある。シリアにロシアの勢力が存在しなくなった以上、なおさらだ」と述べ、ロシアが長年シリアのアサド前大統領を支援する一方、トルコが反政府勢力を支援してきたことに言及。「つまり、ある意味ではトルコにとって、将来の欧州によるウクライナへの保証に一役買うための条件が整っているのだ」と述べた。