情報BOX:ミャンマーなどの国際的詐欺拠点、実態と摘発の状況

3月4日、タイとミャンマーの国境地帯で何年も前から国際的詐欺グループが活動してきた拠点が足元で改めて注目されるようになったのは、タイで中国人俳優が誘拐され解放された事件が大々的に報道されたからだ。写真は2月、詐欺グループから解放された人々。ミヤワディで撮影(2025年 ロイター)
Shoon Naing
[4日 ロイター] - タイとミャンマーの国境地帯で何年も前から国際的詐欺グループが活動してきた拠点が足元で改めて注目されるようになったのは、タイで中国人俳優が誘拐され解放された事件が大々的に報道されたからだ。
この事件をきっかけにタイと中国、ミャンマーが、東南アジアに広がる詐欺グループのネットワークの中核を壊滅させようとする共同作戦を開始した。
国連によると、犯罪組織は何十万人も密入国させ、年間数十億ドルの不法な利益を得る手伝いをさせていたもようだ。
<犯罪組織の正体>
カンボジア、ラオス、ミャンマーを中心にオンライン詐欺の拠点が置かれていた。
だます側はしばしば、ソーシャルメディアやメッセージアプリを駆使して被害者とオンライン上で親密な関係を築いた後、暗号資産(仮想通貨)などに関する偽の投資話に誘導する手口を用いる。こうした詐欺は、豚を太らせるだけ太らせて屠るという意味から中国語で「殺猪盤」とも呼ばれる。
専門家の話では、一部拠点ではマネーロンダリング(資金洗浄)や違法ギャンブルも行われていた。
現在当局による主な取り締まりの対象となっているのは、ミャンマーのタイ国境沿いにあるミャワディだ。犯罪組織の拠点がこの地域を実効支配する少数民族の反政府武装勢力である「カレン民族軍(KNA)」や「民主カレン仏教徒軍(DKBA)」の保護を受けているケースも少なくない。
<詐欺拠点の起源>
米国平和研究所(USIP)によると、ミャワディでは1990年代に中央の統制が緩んでカジノやオンラインのギャンブルの関連施設が出現し、2000年代に入ってそれらの勢いが拡大した。
ミャワディでの詐欺グループの主要拠点の1つとなっていた「シュエコッコ」と呼ばれる街区は、香港のヤタイ・インターナショナル・ホールディングス・グループ(亜太国際控股集団)とKNAの前身組織が2017年に設立し、カジノ施設として宣伝されていたという。
ヤタイは人身誘拐を含めた犯罪行為への関与を否定している。
ただ、ミャンマーの国境地帯での詐欺行為は過去数年で著しく増加。戦略国際問題研究所(CSIS)は、コロナ禍のロックダウンや国境封鎖によってカジノへの集客を断たれた犯罪組織が新たな資金源を確保しようとしたと説明して「オンライン詐欺用に多くの施設が衣替えされた」と明らかにした。
<組織運営者>
主として中国に本拠を置く犯罪組織が拠点を運営していることが知られており、ミャワディではKNAなどの武装組織も活動を支援しているとUSIPは解説する。
ミャワディに連れてこられた複数の外国人は、拠点では抑圧と拷問が日常的に行われていたと明かした。
ミャンマー北部の中国に接する地域では、中央の軍事政権系のグループも詐欺拠点を直接運営したり、支援したりしていたため中国側に大きな不満をもたらす原因になった。これらの拠点の幾つかは、反政府武装勢力による2023年の軍事作戦によって接収された。
ロイターの23年の調査では、「殺猪盤」と関連がある少なくとも900万ドルが、タイにある中国の貿易グループと深いつながりがある代理人が登録した口座に存在することが分かっている。
<直近の取り締まり状況>
東南アジアの一部の国は詐欺拠点解体に向けた取り組みを強化してきた。タイはミャンマー国内の詐欺拠点がある地域への電力や燃料、インターネット通信を遮断している。
今回の摘発のきっかけは、今年1月に中国人俳優の王星さんがタイで拉致され、中国のソーシャルメディアで大騒ぎになったことだった。
その後、王さんはミャワディで見つかり、すぐに中国に送り返されたが、この事件がタイ国内で深刻に受け止められた。タイの観光産業にとって中国人観光客は「お得意様」だからだ。
ミャンマーでは軍事政権が1月下旬以降、詐欺拠点で3700人余りの外国人を拘束し、750人余りを本国に送還したと国営メディアが伝えた。
2月には中国が自国民約200人をミャワディと接するタイ側のメーソートから中国へ移送した。詐欺拠点から解放され、なおKNAとDKBAの施設に収容されている約7000人のうち大半は中国籍とされる。
タイ当局による取り締まりはカンボジアにも拡大し、215人余りを詐欺拠点から救出した。