アングル:移民取り締まり強化は「好機」、トランプ氏復帰喜ぶ密入国業者
中米地域から米国への密入国をあっせんする業者にとって、トランプ前大統領の復帰はビジネス拡大を約束する「新年の贈り物」となっている。写真はエルサルバドルから来た母と娘を、メキシコ側から米国側に送り出す密輸業者(写真左)。6月26日、米アリゾナ州ルビーで撮影(2024年 ロイター/Adrees Latif)
Diana Baptista
[メキシコ市 20日 トムソン・ロイター財団] - 中米地域から米国への密入国をあっせんする業者にとって、トランプ前大統領の復帰はビジネス拡大を約束する「新年の贈り物」となっている。
ある麻薬組織に所属するという密入国あっせん業者の1人はトムソン・ロイター財団に「トランプ氏(の大統領選)勝利に感謝する」と語り、来年1月20日にトランプ氏が大統領に就任してより多くの稼ぎを得られるのを心待ちにしていると明かした。この業者は過去6年間、主に中米・カリブ海地域から米国に不法移民を送り込んできた。
期待しているのは、トランプ氏が約束してきた不法移民の取り締まりや強制送還、国境沿いの壁の延伸などが実行されるとともに密入国ビジネスが活発化し、1人当たりの手数料が少なくとも2000ドル上昇する展開だ。
あっせん業者は、暴力や貧困から逃れてきた多くの移民の間に広がる「第2期トランプ政権の下で難民申請の承認が獲得しにくくなるのではないか」との不安にもつけ込もうとしている。
トランプ氏が大統領選に勝利する前から、業者はソーシャルメディアに偽情報や詐欺的な情報を流し、トランプ氏が次期大統領になる前に米国に密入国するのが得策だと移民に広めてきた。
トムソン・ロイター財団の取材に応じた先の業者は、近年は毎週約30人を米国に飛行機やバス、自動車で密入国させ、1人当たり最低5000ドルを徴収してきたと話す。こうしたビジネスを支えるのは、実際に無事密入国を果たした家族からの推奨の口コミで、取引相手には食事や睡眠、インターネット利用ができる安全な住居も世話するという。
ただこの業者のビジネスは過去1年間で8割も減少した。米税関・国境取締局(CBP)が移民希望者向けに正式な難民申請手続きができるアプリを提供した影響だ。
米国への移民希望者は、密入国あっせん業者に高額な料金を支払うよりも、米メキシコ国境で手続きの予約をして順番がくるのを待つ方を選んだ。昨年、CBPのアプリでは1日当たり1450件の予約枠があった。
ところがトランプ氏はこのアプリを廃止し、実質的に合法的な難民申請手段を廃止しようとしている。これが密入国あっせん業者に対する需要を増やし、彼らの料金引き上げにつながる公算が大きい。
先の業者は「米政権は国境を閉鎖するというが、われわれはこっそり入国する抜け穴を常に見つける。完全な国境閉鎖は不可能だ」と言い切り、麻薬組織の支配地域ならば壁を乗り越えて米国に入れる確率は100%近いし、いったん入国すれば希望する場所まで連れて行けると説明した。
人権団体のワシントン・オフィス・オン・ラテンアメリカ(WOLA)のモリーン・マイヤー氏は、国境の取り締まりを強化しても移民を減らせないと指摘。「法執行を増やすことが米国への移民流入を減少させる効果は乏しい。組織犯罪集団に利益をもたらすだけだ」と苦言を呈する。
国連薬物犯罪事務所(UNODC)が2017年に行った推計によると、米国への密入国ビジネスで犯罪集団は年間最大42億ドルを手に入れたもようだ。
<縄張り争い>
米国とメキシコの当局が国境警備を強化する中で、メキシコとグアテマラの国境付近では密入国ビジネスの利権を巡る犯罪組織同士の縄張り争いが激化し、それが移民希望者にとって新たな危険を生み出している。
かつてそれぞれの地域で独立的に活動していた多くの密入国あっせん業者も、今では麻薬組織の手先になり、組織が米国国境に移民がたどり着くまでの全ての手順をコントロールするようになった。
麻薬組織は、大量の人々をメキシコ経由で米国に送り込むための観光バスやトレーラー付きトラック、オートバイ、タクシー、配車アプリの自動車といった膨大な輸送ネットワークも構築している。
先の業者は「われわれは人々の移送から買い物、食料調達まで常に(組織に)『みかじめ料』を払っている」と打ち明けた。
縄張り争いを巡る暴力が特に深刻なのはメキシコ南部のチアパス州。ここは移民が中米各地や、コロンビアとパナマの間にある通行の難所ダリエン地峡から米国を目指す際の重要な交通結節点に当たる。
<唯一の選択肢>
前出の業者によると、メキシコとグアテマラの国境を流れる川を渡る権利を得るためだけに全ての子どもと大人が組織に1人1200ペソ(9300円)を払わなければならない。支払いを拒否すれば誘拐や殺人に巻き込まれるリスクが高いと付け加えた。
WOLAなど複数の人権団体は、移民が米国へ向かう途上で遭遇する深刻な危険を文書で訴えてきた。
マイヤー氏は「誘拐された移民はしばしば、性的暴行や拷問、食料や水を提供されないといったひどい虐待にさらされている。これは米国にいることが多い親族に身代金を強要する手段だ」と述べた。
シンクタンク、メキシコ・エバリュアの安全保障専門家アルマンド・バルガス氏は、麻薬組織の暴力に関するリスクの増大とともに、より多くのメキシコ市民がより良い生活を求めて米国に向かおうとすると警告した。
移民希望者にとっては暴力の激化、国境規制強化、費用増加という三重苦が押し寄せている状況にある。先の業者は「移民も(あっせん業者に)金を払いたくはない。しかしわれわれこそが、唯一かつ最も安全な選択肢になると思う」と来年の収益拡大に自信を示した。
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