ニュース速報
ビジネス

アングル:IMF世銀会合、米関税の霧は晴れず 経済見通しは一層悲観的に

2025年04月28日(月)14時38分

 この1週間、国際会議のため米首都ワシントンに集まった世界各国の経済政策責任者らは、トランプ米大統領の関税措置を和らげるには何が必要か、また関税が世界経済にどの程度の痛みをもたらすかについて、明確な答えを得たいと願っていた。写真は、IMFのゲオルギエワ専務理事。4月25日、ワシントンで撮影(2025年 ロイター/Elizabeth Frantz)

David Lawder Karin Strohecker Andrea Shalal

[ワシントン 27日 ロイター] - この1週間、国際会議のため米首都ワシントンに集まった世界各国の経済政策責任者らは、トランプ米大統領の関税措置を和らげるには何が必要か、また関税が世界経済にどの程度の痛みをもたらすかについて、明確な答えを得たいと願っていた。しかし大半の出席者は、答えよりも疑問を多く抱えて帰途に就くことになった。

世界銀行と国際通貨基金(IMF)の春季会合に出席した指導者の多くは、トランプ政権が関税について矛盾を抱えたままであるという感触を得た。

多くの国の財務・貿易閣僚がベッセント米財務長官など要人との会談を望んだが、実現しなかった。会談にこぎ着けた閣僚の多くは、辛抱強く待つよう告げられた。トランプ氏が示した「相互関税」の猶予期間は90日間で、時計の針は期限に向けて刻々と進んでいるにもかかわらずだ。

トランプ政権は18の提案書類を受け取り、交渉が目白押しだと言い募ったが、実際にはこの1週間に結ばれた合意は皆無だった。

ポーランドのドマンスキ財務相は「交渉は行っていない。単に経済について提案し、話し合っているだけだ」と説明。自身としては「この不透明感が欧州と米国、つまり全ての国にいかに害をもたらすか」を強調したという。

ドマンスキ氏は「彼ら(米国側)が、そこまで酷い状況にならないと思っているのは知っている。短期的には痛みをもたらすが、長期的には利益になると考えている。私は、短期的にも長期的にも痛みがもたらされることを危惧している」と語った。

この1週間にトランプ政権が行った最も中身のある貿易交渉は日本および韓国とのそれだったが、「生産的な」交渉だったするベッセント氏の発言とは裏腹に、いずれも結論に至らなかった。

IMFはトランプ政権の関税措置を考慮して大半の国の経済成長見通しを下方修正しつつも、民間予想に比べるとわずかに楽観的な見通しを示した。米国自体と、多くの品目に145%の関税を突きつけられた中国についてさえ、景気後退とはほど遠い予想にとどめている。

IMFのゲオルギエワ専務理事は記者団に「貿易紛争を解決し、不透明感を和らげるための作業が進行中だと認識している。不透明感は事業に非常に悪い影響をもたらすため、暗雲が晴れるのが早ければ早いほど利益、成長、世界経済にとって良い」と語った。

しかし複数の経済高官はロイターに対して民間予想を引き合いに、景気後退の確率はIMFが示す37%よりも高いと話した。

<途上国の債務危機>

途上国の債務軽減を求める非営利団体、ジュビリー・USA・ネットワークの執行ディレクター、エリック・ルコント氏はIMFの見通しについて、明らかに市場のパニック回避を狙っていると指摘。高官らは非公式の会合では、新たな債務危機が浮上しつつあるとの懸念を示していると明かした。

ルコント氏によると、関税交渉に覆い隠されて債務交渉は結論に至らず、「何もしない、といった感じの1週間だった」と嘆いた。

パキスタン中央銀行のレザ・バキル総裁は「多くの途上国、特にグローバルサウスの国々の間では、開発融資の議題がわきに追いやられたことに強い失望感が広がった。だれがこの議論を主導することになるのか」と苛立ちをにじませた。

世銀のチーフエコノミスト、インダーミット・ギル氏も、新興国市場の債務水準上昇に警戒感を示し、関税によって、途上国の成長に不可欠である貿易と外国直接投資が急減速したと指摘した。

<IMF・世銀から撤退せず>

ベッセント氏がIMFと世銀への支持を表明したことに、諸外国の政策責任者は胸をなで下ろした。

共和党保守派の政府再編構想「プロジェクト2025」には米国のIMF・世銀からの撤退が盛り込まれていたが、ベッセント氏は撤退を表明せず、両機関は中心的な使命である経済の安定および発展に再び重点を置くべきだと主張した。

また、ベッセント氏が3桁の対中関税および報復関税は持続不可能だと述べ、より小幅な措置にとどめる合意が間もなく結ばれる可能性を示したことにも、会合出席者と金融市場は意を強くした。

しかし中国は、同国との関税交渉が進行中だというトランプ氏の主張を否定し、混乱が深まった。

アトランティック・カウンシルのジオエコノミクス・センターのシニアディレクターで、かつてIMFの筆頭副専務理事を務めたジョン・リプスキー氏は「ほとんどの出席者は、経済的な観点から見て状況がさらに悪化すると覚悟してここを去ったと思う。一歩下がって全体を見渡すと、非常に憂慮すべき状況だ」と述べた。

リプスキー氏はその上で、現時点で先進諸国にとって最大の課題は、米国債その他のドル建て資産が最近売り込まれたことだと指摘。これは米国の経済政策への信認が崩れていることの表れだとの危惧を示した。

同氏は、経済における米国の指導力への信認こそが、ドルが基軸通貨としての地位を獲得した根本的な理由だと説明。米経済の規模は大き過ぎてドルを無視することはできないが、この信認が修復されない限り、貿易相手国はドルの代わりを探そうとするだろうと予想した。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

コマツ、関税と円高で今期27%営業減益予想 市場予

ワールド

アングル:トランプ米大統領の就任後100日、深まる

ワールド

ドイツ、EU財政ルールの免責要請 国防費増額で

ビジネス

中国外務省、米中首脳の電話会談否定 「関税交渉せず
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドローン攻撃」、逃げ惑う従業員たち...映像公開
  • 4
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 7
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 8
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中