アングル:米関税で業績予想非開示リスクが急浮上、反発シナリオに冷や水

4月8日、月後半に始まる決算シーズンを前に新たな相場下押しリスクが意識され始めた。都内で2024年3月撮影(2025年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
Hiroko Hamada
[東京 8日 ロイター] - 4月後半に始まる決算シーズンを前に新たな相場下押しリスクが意識され始めた。トランプ関税の影響が不透明だとして企業が通期の業績見通しを示さないケースが増えるのではないか、との懸念だ。リスク回避のパニック売りが一巡したとしても、業績が読めない企業には機関投資家などからの買いは見込めず、反発シナリオも描きにくくなる。
安川電機の株価が7日にストップ安となったことが、市場に波紋を広げている。同社は4日、2026年2月期(国際会計基準)の連結営業利益が前年比19%増の600億円になるとの見通しを発表した。嫌気されたのは、最大のリスクとみられている米関税のリスクを見通しに反映していなかったことだ。
山和証券の調査部課長・松本直志氏は「(7日の)全体相場の流れもあるが、米関税の影響を織り込めていない業績数字の信頼感はあまりなく、売りが先行した」と指摘する。同社は景気敏感株の一角でもあり、景気の先行き不透明感が強まる中で「設備投資が減ってしまう可能性があり、利益が押し下げられる懸念は強い」という。
全体相場が急反発した8日には、同社株も反発し9%超高となったが、前日の下落分の5割程度戻しただけだった。
<求められる企業の情報発信>
市場関係者からは、決算シーズンを通じて2026年3月期の見通しが明らかになれば日本株の次の方向性が明確になるとの期待感も聞かれる。
野村証券のストラテジスト、沢田麻希氏は「相互関税の影響が想定より大きくなく、増益見通しが示されるようなら、株価の割安感が認識されて日本株は本格反騰に向かうシナリオが描けるようになる」との見方を示す。
一方、フィリップ証券のアナリスト、笹木和弘氏は「業績見通しを発表しない企業や、(関税の)影響を精査できるようになってから公表する、との対応をとる企業が出てくるかもしれない」と指摘する。トランプ米政権の政策動向は予測がしづらいことに加え、決算発表までは数週間と時間が限られているためだ。
東海東京インテリジェンス・ラボのシニアアナリスト、沢田遼太郎氏は「決算発表のスケジュールが5月上旬などであれば『安川流』で対応し、米関税の影響を考慮せず見通しを示す企業が出るかもしれない」と話す。
直近では、20年の新型コロナ禍の際にサプライチェーン(供給網)の混乱を一因として、業績予想の公表を延期する企業が続出した経緯がある。
安川電機の小川社長は、米関税の影響で同社の顧客の動向に密接に関係するサプライチェーンがどう変化するかがポイントになると指摘し、精査した上で「戦術はきちんとしなければならないと思っている」と述べた。
決算発表後に株価が急落した安川電機のケースを考慮して、「米関税の影響を考慮せずに見通しを示すのはかえって株価下落のリスクになりかねない、との思惑から業績予想の公表を差し控える企業も増えるのではないか」と、東海東京の沢田氏はみている。
見通し開示が遅れる企業に対する市場の評価は、厳しくなる可能性がある。「アナリストは予想が難しくなり、目標株価は多少ディスカウントして出さなければならなくなりそうだ」(笹木氏)という。予想非開示の動きが広がれば「決算で株高」との期待感は失望に変わるリスクもありそうだ。
岩井コスモ証券の投資調査部部長、有沢正一氏は「投資家にとって一番困るのは、関税の影響を見通せないため業績予想を示さないということだ」と指摘する。保守的に見積もった数字を示すなり、関税の影響はあっても世界的な景気悪化までは織り込んでいないなどの前提を置くなどして「何かしらの経営者による発信は欲しい」と話している。
(浜田寛子 編集:平田紀之、橋本浩)