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アングル:日本株は「恐怖売り」こなす、つきまとうトランプ警戒

2025年04月08日(火)14時12分

 東京株式市場で日経平均が急反発している。前日に節目とみられていた昨年8月の安値を割り込み、投資家心理は極度の悲観に傾く「陰の極」に到達した可能性が意識されている。写真は東京証券取引所。2024年12月、東京で撮影(2025年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

Noriyuki Hirata

[東京 8日 ロイター] - 東京株式市場で日経平均が急反発している。前日に節目とみられていた昨年8月の安値を割り込み、投資家心理は極度の悲観に傾く「陰の極」に到達した可能性が意識されている。「恐怖を伴う売り」はひとまず一服した。ただ、トランプ関税の世界経済への悪影響を織り込み切ることは難しく、米株次第では下値をさらに切り下げる弱気シナリオも消えたわけではない。昨年8月急落後のようなV字型の回復は見込みにくい。

8日の東京市場では、寄り付き直後から買いが強まり、日経平均は短時間で2000円超上昇して3万3000円を回復した。「前日にいったんセリング・クライマックスを迎えた可能性がある」と、松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリストは指摘する。

セリング・クライマックスは、投資家の多くが弱気に傾いて売り注文が殺到することで生じる。その後は需給が好転することで、株価が反転上昇することがある。松井証券の店内では前日、信用買いされた株式の含み損益の度合いを示す信用評価損益率が前週末のマイナス15%前後から23%へとさらに悪化し、追い証多発の目安となるマイナス20%を超えた。

米株でもクライマックスが近いとの見方が浮上している。7日の米国市場で、投資家の不安心理を示す「恐怖指数」として知られるシカゴ・オプション取引所(CBOE)のVIX指数(ボラティリティー・インデックス)が前週末に続いて急上昇し一時60に達した後、47付近に低下して取引を終えた。

前日までの売りはVIXの上昇を怖れた「恐怖に伴う売り」だったと、りそなアセットマネジメントの戸田浩司ファンドマネージャーはみている。引き続き高水準ではあるが「VIXを手掛かりにした投資家はいったん売ったとみられ、もう一度上昇でもしなければ新たな悪材料にはならない」という。

VIXの先物は、先の期間ほど不透明感が高まり、その水準は高くなるのが通例だが、現時点では6カ月物が32程度で、先の期間ほど水準が低くなっている。野村アセットマネジメントの石黒英之チーフ・ストラテジストは「不安心理のピークを迎えている可能性が示唆される」と話す。米個人投資家協会(AAII)による週次の調査では、先行き6カ月の相場見通しを「弱気」とする投資家の割合は3日発表時で前週から約10ポイント上昇し、61.9%となった。2009年3月5日の70.3%以来約16年ぶりの高水準で「極端に振れた際には、株価反転の転機になるケースが多い」(野村AMの石黒氏)との見方もある。

<反転弾みのきっかけ探し>

トランプ関税自体が前例のない話だけに、慎重な見方は根強い。昨年8月の急落後のようにV字型の急反転になるとの見立ては、現時点では少数派となっている。8日の日経平均は一時2000円超高の大幅反発となったが、相互関税発表後の下落幅4500円の半値戻しにも届いていない。

一方、米国が関税の緩和に動くなら、反転に弾みがつき得ると期待を寄せる声もある。石破茂首相は7日夜、米国の関税措置を巡ってトランプ米大統領と電話会談し、双方で担当閣僚を指名して協議を続けていくことを申し合わせた。

アセットマネジメントOneの浅岡均シニアストラテジストは、この日の株高は日米間の協議が進展するとの思惑や、知日派とされるベッセント財務長官が担当になったことから買いが入ったことも要因の一つとみている。

目先で期待が集まるのは、個別の国・地域を対象に関税緩和の「第一号」が登場することだ。取り組みとしては、ベトナム、台湾が関税をゼロにする提案、インドが関税を引き下げる案などが伝わっている。

仮に米国が一部の国・地域に対して関税の緩和で応じる姿勢を示せば「市場が懐疑的な見方にある中では、反発が強まる可能性がある」(東海東京インテリジェンス・ラボの鈴木誠一チーフエクイティマーケットアナリスト)という。

前日の米国市場では、トランプ氏が中国を除く全ての国に対する関税を90日間停止することを検討していると伝わると、S&P500が3%超上昇する場面があった。ホワイトハウスが報道を否定し、S&Pは再び下げに転じたが「関税緩和に伴うリバウンド力が示唆された」(東海東京の鈴木氏)とみられている。

他の国・地域に応用可能かも重要となる。アセットマネジメントOneの浅岡氏は「交渉の余地があるとみえてくれば、金融市場の安心感につながるだろう」と話している。

(平田紀之 編集:橋本浩)

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