アングル:「米国例外主義」終焉か、投資マネーが欧州・中国へ

国際的な投資マネーの流れは、歴史に残るような貿易戦争が始まる兆しや欧州の大規模財政出動、最先端技術開発競争における中国の台頭などを受け、急変しつつある。2020年2月、ニューヨーク証券取引所で撮影(2025年 ロイター/Lucas Jackson)
Dhara Ranasinghe Amanda Cooper
[ロンドン 5日 ロイター] - 国際的な投資マネーの流れは、歴史に残るような貿易戦争が始まる兆しや欧州の大規模財政出動、最先端技術開発競争における中国の台頭などを受け、急変しつつある。投資家にとっては、米国から本格的に資金が逃げ出す一大転換点が出現した可能性が示されている。
中国は5日、追加の経済対策を打ち出すとともに、トランプ米政権が仕掛ける貿易戦争の悪影響を和らげる取り組みを強化すると約束。その直前にはドイツで次期政権樹立に向け連立交渉中の各政党が、東西ドイツ統一以降最も大きな財政政策の見直しに合意した。
一方、米国のデータは経済の勢いが弱まっている様子を示唆し、トランプ政権が今週発動した関税が国内外に不安を与えている。
過去3年間はおおむね、投資家の間で「米国例外主義」が共有されていた。つまり米国は成長率や株価、人工知能(AI)開発などで他国より常に抜きん出ているのだと。
ただステート・ストリート・グローバル・マーケッツのマクロ戦略を統括するティム・グラフ氏は「世界は今、米国モデルが変わっていると認識している。われわれはその環境に順応しなければならず、米国はもはや貿易相手として信頼できないし、防衛力も自前で何とかする必要があると話題にしている」と述べた。
このような心理的変化が、世界の株式市場で滅多に見られない値動きのかい離をもたらした。
S&P総合500種は年初来で1.8%下げた半面、欧州株は約9%上昇して最高値を更新、香港のハイテク株は30%前後も跳ね上がった。
ユーロ/ドルは一時1.07ドル超と4カ月ぶりの高値を付け、多くの銀行は先を争うようにユーロ/ドルが等価(パリティ)に下落するとの予想を撤回してしまった。
米商品先物取引委員会(CFTC)の週間データに基づくと、トランプ大統領が1月に就任して以来、投機筋のドル買い持ち規模は半減して160億ドル程度に縮小している。
TSロンバードのグローバル・マクロ・マネジングディレクター、ダリオ・パーキンス氏は「昨年12月時点では米国例外主義が圧倒的なコンセンサスで、米国こそが唯一の投資先だった」と振り返る。
その上で「足元で起きているのは関税の脅威とトランプ氏の圧力で他国がより多くの支出を迫られている事態だ」と指摘した。
トランプ氏は1945年以来米国に定着していた外交政策をご破算にして、最大の貿易相手に関税を発動して貿易戦争を始めるとともに、欧州の指導者には防衛費の負担を劇的に拡大することを強いている。
ただこうした関税や各種の不透明感が米経済を減速させ、企業の景気悪化に対するぜい弱性が拡大。その結果、2月の米銀行株指数は8%下落した。逆に欧州の銀行株指数はこの間15%も高騰した。
投資家がリスク分散化の一環として米国から欧州に資金を振り向けたからだ。
<中国資産見直し>
欧州と中国が大幅な支出に動く構えを示す中で、ドルの魅力は相対的に低下しているように見える。
RBC傘下のブルーベイの債券チームで最高投資責任者を務めるマーク・ダウディング氏は「われわれは長らく対ユーロでドルを買い持ちにしてきたが、1週間前にこのポジションを解消した。トランプ氏の振る舞いが米国資産全体の魅力度を減退させた」と述べた。
一方、中国資産が昨年、景気鈍化と富裕層の支出減少で売りを浴びた後、中国政府は何度か内需拡大を促進する措置を講じている。
中国に投資するファンドの資金フローは昨年11月にトランプ氏が大統領選で勝利して以来ほぼ一環して流出超だったものの、2月上旬には流入超に転じ、これまでに約30億ドルが入ってきたことがリッパーのデータで明らかになった。
1月下旬には中国新興企業ディープシークの登場で、AI開発の分野でも米国の優位が揺らぐ事態が到来。1月27日以降で香港上場のハイテク株は24%上昇したのに対して、米ハイテク超大型銘柄は12%下落した。
資産運用会社、同享投資のバイス・ゼネラルマネジャーを務めるヤン・ティンウ氏は、中国の国力増大が国内資産を支えるようになっているので、既に国内株式市場は米国の関税引き上げの打撃を受けなくなっているとの見方を示した。
ヤン氏は、動画投稿アプリのTikTok(ティックトック)やソーシャルメディア・プラットフォームの小紅書(レッドノート)などを見れば、中国の技術力が拡大している様子が分かると主張する。
それでも米経済の底堅さと相対的な金利の高さによって、長期的にドルの魅力は維持されるとの声も聞かれた。
マニュライフ・インベストメント・マネジメントのマルチ資産ソリューションズ・グローバル・エクイティーズ部門最高投資責任者を務めるネート・ズーフト氏は「(資金の流れに)変化が起きているとは思う。(しかし)われわれはこれが定常的な変化でなく、戦術的なものとみなしている」と語り、そうした観点で最近、欧州株の投資判断を「最大限のアンダーウエート」から「中立」に引き上げた。