焦点:日産との統合、ホンダから漏れる本音 幾重のハードル
12月26日、経営統合に向けた協議を始めたホンダと日産自動車は、統合が実現すれば世界3位となる販売規模を生かして収益向上を目指す考えだ。ただ、前提条件として最終合意を予定している来年6月までに、日産がリストラを完了して業績を改善させる必要がある。写真は都内で23日撮影(2024年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
Maki Shiraki David Dolan
[東京 26日 ロイター] - 経営統合に向けた協議を始めたホンダと日産自動車は、統合が実現すれば世界3位となる販売規模を生かして収益向上を目指す考えだ。ただ、前提条件として最終合意を予定している来年6月までに、日産がリストラを完了して業績を改善させる必要がある。ホンダ内部からは統合の実現は日産次第と冷めた声も聞かれる。統合後の成長シナリオにも不透明感は拭えない。
<時間との勝負>
ホンダの関係者によれば、来年1月末までに日産のデューデリジェンス(買収前に行う相手企業の財務状況や法的問題、運営、資産などの詳細な調査)終了を目指し、来年6月までに「日産がターンアラウンド(事業構造計画による業績改善)ができると『ホンダが判断』したら最終合意する」。
同関係者は「以前から統合は検討されていたが、さまざまな点で反対も多かった」としつつも、「現状の販売規模400万台では生産コストが高く、競争に勝ち抜けない」との危機感が後押ししたと話す。
ただ、リーク報道が相次ぎ、複数のホンダ幹部の間では執行能力を含めた日産への不信感も強く、「計画通り9000人、生産能力20%を自力で削減できるかを見極めたい」という。
日産は半年でリストラ完了を事実上、迫られた形だ。
SBI証券の遠藤功治チーフエグゼクティブアナリストは「日産にとって時間との勝負。これまでをみると、日産の経営はスピードが遅い。ホンダの期待するスピード感でリストラを実行し、利益を出せる体質に戻さないとホンダは見切るだろう。日産にとってクリティカル(極めて重要)な6カ月になる」との見方を示した。
ホンダの三部敏宏社長は23日の会見で、「日産のターンアラウンドの実行が絶対的な条件だ」とし、「自立した2社でなければ経営統合の成就はない」と明言した。
<待ち受ける難路>
統合実現の後、車台共通化などによる規模のメリット、研究開発機能の統合、生産体制・拠点の最適化などを通じて2030年以降に相乗効果1兆円以上を生み出し、営業利益は3兆円超と両社の23年度合計比で54%増を目指す。
ただ、この数字の達成は容易ではない。
両社にとって当面の最大の課題は電気自動車(EV)の品揃えで、現状は強いモデルがない。
日産は「リーフ」でEV市場を開拓したが、その後つまずいた。新型EV「アリア」もEV専業の米テスラの「モデルY」に挑むはずだったが、生産上の問題が阻んだ。
ホンダは本格的なEV商品群の投入がこれから始まり、中国では「烨(イエ)シリーズ」を24年度から、北米を皮切りに26年から「0(ゼロ)シリーズ」を世界展開する。
モーニングスターの上級アナリスト、ヴィンセント・サン氏は「両社とも魅力的なEVを欠いており、統合後も新型車のパイプラインや技術研究開発の課題に直面することになるだろう」と述べた。
車台共通化はコストシナジーを生むが、開発や事業再建には「予想よりも時間がかかる可能性がある」とみている。
<失われた地盤>
世界最大の自動車市場である中国では、EVシフトによって消費者の関心はソフト主導の機能や車内でのデジタル体験に集まるようになっているが、この分野は中国メーカーが得意とする。
比亜迪(BYD)などの中国勢は革新的なソフトを搭載したEVやハイブリッド車を次々と投入し、ホンダと日産は中国での地盤を失いつつある。
ムーディーズのシニアアナリスト、円城ディーン氏は顧客向けメモで、両社が中国事業を改善するにあたり、統合は「実行リスクが高い」と指摘。二輪車事業に比べて利幅が小さいホンダの四輪車事業は、日産の自動車事業を吸収する「柔軟性に乏しい」とみる。
また、両社ともに米国と日本も重点市場で「大きな重複」であり、地理的多様化の点では大きな利益をもたらさないとみている。一方、トランプ次期米大統領の関税の影響緩和には統合が役立つ可能性があるとした。
統合には日産が筆頭株主の三菱自動車も合流する可能性があり、3社合わせた年間販売台数は約850万台と世界首位のトヨタ自動車グループ、2位の独フォルクスワーゲングループに次ぐ規模となる。
統合が実現すれば、フィアット・クライスラー・オートモービルズとPSAが21年に合併して520億ドルの取引でステラティスを設立して以来、自動車業界最大の再編となる。そのステランティスの販売台数は統合前よりも減少している。
東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠司シニアアナリストはリポートで、1)3社の企業風土があまりに違う、2)持ち株会社の財務体質が今のホンダより弱くなると見込まれる、3)協業企業との関係、特に日産はアライアンスを組む仏ルノーとの関係を清算していない、4)3社ともアライアンスの実績が十分ではないことを理由に、26年8月の持ち株会社上場までに統合は「延期されるかもしれない」との思いもよぎるとしている。
日産の内田誠社長は会見での質疑応答で、社員には「リストラというトンネルの中にいったんは入るが、経営統合というその先の光を示す」と話したが、杉浦氏は「トンネルの出口にホンダが待っていてもらうには、まだやらればならいことが両社には多い」とも話している。
(白木真紀、デイビット・ドラン 編集:橋本浩)
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