焦点:日本経済、政府内に下振れ警戒感 トランプ再選で増す不確実性
10月15日、7─9月期の実質国内総生産(GDP)は個人消費が伸びてプラス成長となったが、足元では円安が進行し、家計の消費マインドを悪化させている。都内で4月撮影(2024年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
Kentaro Sugiyama
[東京 15日 ロイター] - 7─9月期の実質国内総生産(GDP)は個人消費が伸びてプラス成長となったが、足元では円安が進行し、家計の消費マインドを悪化させている。内需全般に力強さを欠く中、トランプ氏の米大統領再選を受けて世界経済は不透明感を増しており、政府内からは海外要因による先行き下振れリスクを指摘する声が出ている。
<内需拡大に疑問符>
2024年7―9月期の実質GDPは年率プラス0.9%と2四半期連続のプラスとなった。GDPの過半を占める個人消費が市場予測を上回る伸びを示すポジティブサプライスとなったが、夏のボーナスや定額減税、電気・ガス料金の補助金復活など一時的要因が追い風になったとの見方がある。
内需のもう一つの柱である設備投資は前期比でマイナス。引き続き効率化や省力化を目的としたソフトウェア投資は堅調だが、半導体製造装置やトラックなどが一服。建設工事関連は人手不足による工期の長期化が足かせになっている可能性があり、必ずしも内需全体に力強さがみられるわけではない。
ある経済官庁幹部も「地合いとしてものすごく消費が強いかというと思ったほどでない。特にマインドがいま一つ。内需は手放しでは考えておらず、先行きも慎重に考えている」と話す。
「街角景気」とも呼ばれる内閣府の景気ウオッチャー調査によると、10月は現状判断DIと2─3カ月先の景気の先行きに対する判断DIがともに2カ月連続で低下。一部回答者からは、物価上昇による顧客の節約志向や買い控えを懸念する声が上がっていた。
大和証券の末広徹チーフエコノミストは「原材料価格の高騰や最低賃金の引き上げによるコスト高が中小企業の収益を圧迫していると予想され、内需が拡大していくイメージは持ちにくい」と指摘する。
<関税合戦を懸念、投資手控えも>
世界経済の先行きもトランプ前大統領の返り咲きで不確実性が高まっている。関税引き上げや移民の制限など、トランプ氏の選挙戦中の主張がどこまで実際の政策に反映されるか見通せないためだ。
第1次トランプ政権が関税を武器に各国との貿易交渉で「ディール(取引)」を求めたことは記憶に新しい。日本も鉄鋼・アルミニウムに関税が上乗せされたほか、米中の貿易摩擦のあおりで中国製品に部品を供給する日本企業などが打撃を受けた。当時の事情を知る前出の経済官庁幹部は、中国からの輸入品に60%、すべての国からの輸入品に10─20%の関税を課すとするトランプ氏の主張に嘆息をつく。
みずほ証券の分析によると、米国が中国を除くすべての国に10%の関税をかけた場合、日本の実質GDPは0.13%ポイント押し下げられる。さらに対中関税率の60%への引き上げと中国による同率の報復関税が加わった場合、日本の実質GDPへの影響は0.25%ポイントまで膨らむと試算している。
米中の関税合戦による貿易面の影響に加え、トランプ政権の経済政策による米国のインフレ再燃や、為替のドル高/円安進行なども懸念される。内閣府幹部は「世界経済や米国経済の先行きが見通しづらく、投資を手控える企業も出てくるかもしれない」と警戒する。
別の政府関係者は、経済問題だけでなく、ウクライナ紛争や中東情勢、中台関係など地政学的な動きについても「変数が多くなる」と指摘する。「経済安全保障上、どのようなシナリオになっても日本が関与しないところでいろいろなものが決まっていく展開はリスクが高い」とし、政府だけでなく企業も主体的な情報収集や働きかけがより重要だとの認識を示す。
経済産業省のある幹部は「選挙は選挙、実務は実務」と割り切る。大統領補佐官や財務長官、USTR(米通商代表部)代表など要職の人事をみるまで先行きについては断定的なことは言えないとした上で「まずは経済対策で日本の経済力、技術力を強くしておくということが重要。不確定な要素が多いからこそ、日本国内で確実にできることをしっかり積み上げていくのが大事だ」と話す。