リベラルがキャンペーン下手な理由 貧困な語彙でもトランプが熱狂を作る理由
語彙の貧困さは、むしろそれこそがトランプの強みなのか Joshua Roberts-REUTERS
<トランプの演説の無意味な繰り返しの多さ、語彙の貧困さは、しばしば小学生並みと揶揄されてきたが、むしろそれこそが彼の強みなのではないか? 幾多の政治演説を分析した研究が発表された>
ドナルド・トランプがビジネスの達人かについては議論の余地がある。しかし、おそらく史上最もローコスト・ハイリターンな投資の一つをやってのけたことだけは間違いない。
トランプが「Make America Great Again」というフレーズを商標登録申請したのは、ミット・ロムニーがバラク・オバマに敗れた2012年の米大統領選挙の直後のことだった。その4年後、わずか325ドルの登録料が、おなじみの赤い野球帽に代表される膨大なトランプ・グッズの売り上げや、世界最強の国の大統領の座に化けたのだ。
レーガンが大統領選で使った「Let's Make America Great Again」
今では短縮形のMAGAや様々なパロディでもよく知られる「Make Ameria Great Again」は、数奇な運命を辿った言葉である。1980年、共和党から出馬したロナルド・レーガンの大統領選キャンペーンにおいて、「Let's Make America Great Again」というフレーズが使われたのがそもそもの始まりだ。経済におけるスタグフレーションの進行やイランのアメリカ大使館人質事件など、民主党のカーター政権下においてアメリカの国力や威信の低下がささやかれる中、「再びアメリカを偉大にしよう」は前向きなメッセージとして人気を博した。
次にこのフレーズを使ったのは、なんと対立する民主党のビル・クリントンだった。キャンペーンの正式な標語というわけではなかったが、1992年の大統領選における演説で何度か使っていて、クリントンの若く清新なイメージの形成に威力を発揮した。しかしこのときも、「Let's」が頭に付いていたのである。Let'sには「~しませんか」という勧誘のニュアンスがあって、MAGAに比べると柔らかいが、いかにも弱い。
トランプ自身、なかなかしっくり来る言い回しが浮かばなかったようで、「We Will Make America Great」や「Make America Great」などいくつか考えた末、最終的に力強い命令形の「Make America Great Again」に落ち着いた。ちなみに、2016年の大統領選でトランプと戦ったヒラリー・クリントンの陣営のスローガンを覚えている人はいるだろうか。誰も覚えていないでしょう。今から思えば、MAGAと赤い帽子が広まった時点で、勝負は付いていたのかもしれない。
「Make America Great Again」の魅力はどこにあったのか
ところで、「Make America Great Again」の魅力はどこにあるのだろう。一時は候補だったという「Make America Great」との比較がヒントになりそうだ。「Make America Great」に欠けているもの、それは「Again」である。
なぜAgainが重要なのか、行動経済学風の説明ができそうだ。人間は得ることよりも、失うことに恐怖を抱く傾向がある。これからアメリカは偉大さを獲得するのです、という表現よりも、かつて偉大だったアメリカはこんなにも失ったのだ、という喪失感のほうが、より人々の心を動かすことができる。
しかも、「偉大」の具体的内容は、個々人が好きに思い浮かべることができるのだ。ラストベルトの労働者にとっては、偉大とは製造業が輝いていた時代のアメリカだろうし、オルタナ右翼の一党にとっては、ポリティカル・コレクトネスなどという妄言が幅を利かせていない、男尊女卑が当然だったキリスト教保守のアメリカこそが、取り戻すべき過去だ。往々にしてそれは、実在しなかった幻の過去なのだが。
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