コラム

見逃してはいけない、米中双方が実は発している「緊張緩和のシグナル」と「教訓」

2023年06月14日(水)13時10分
中国艦,台湾海峡

台湾海峡で米駆逐艦チャンフーンの前を横切る中国艦(6月3日) DEFENSE VISUAL INFORMATION DISTRIBUTION SERVICE-HANDOUT-REUTERS

<米中は互いに政治的・経済的・軍事的な緊張緩和を望むサインも発している。しかし、一番重要なのは、第1次大戦と第2次大戦の「直前の教訓」>

中国政府は台湾周辺と台湾海峡で事実上の軍事支配領域を徐々に拡大する戦略を一貫して追求しているように見える。

国際法上は明らかに国際領域だが、他国の航空機や船舶に中国の主権を認めるか、軍事衝突のリスクを負うかの選択を迫る姿勢を鮮明にしつつある。

特に意識しているのが、この地域の米軍だ。過去2週間、南シナ海上空で中国軍戦闘機が米軍偵察機のおよそ120メートル以内まで接近したり、アメリカとカナダが台湾海峡で「航行の自由」作戦の演習中、中国海軍の駆逐艦が米駆逐艦の船首から約140メートルを横切る危険な航行を行ったりした。

2022年8月のペロシ米下院議長(当時)の台湾訪問以来、中国が台湾周辺で軍事活動を活発化させていることを示す最新の事例だ。

中国の挑発的行動は、米中どちらかの小さなミスが超大国間の戦争の引き金になりかねないという懸念を呼び起こした。

中国は10年以上前から、南シナ海のほぼ全域、台湾と台湾海峡の領有権主張と、アメリカに対して東南アジアにおける「挑発的」かつ「威嚇的」な軍事プレゼンスの撤回を求める姿勢を強めてきた。

だが、この2つの出来事はアメリカや同盟国との緊張をひたすらエスカレートさせるものではなく、台湾と台湾海峡に関する自国の立場を強調する抑制的な動きと考えるべきだろう。

挑発の一方で、米中は互いに政治的・経済的・軍事的な緊張緩和を望むシグナルを発している。

スパイ気球、貿易制裁、挑発的な台湾訪問、ウクライナ・ロシア戦争に対する反米的な「和平提案」など、両国間に摩擦が存在するのは確かだ。

さらに国際秩序のあるべき姿について、両国は互いに相いれないモデルを掲げている。それでも、あるいはだからこそ、米中は緊張緩和を求めている。

サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は6月2日、アメリカは「前提条件なしに中国に関与する準備ができている」と述べた。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ムーディーズ、サウジ格付けを引き上げ 脱石油依存政

ワールド

化石燃料「貧困解決の鍵」、気候変動重視せず=米エネ

ワールド

豪当局、厳格な住宅ローン規制維持 雇用市場減速を警

ワールド

台湾の北に中国気球1機、半年ぶり飛来=国防部
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    「典型的なママ脳だね」 ズボンを穿き忘れたまま外出…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story