コラム

教団の収益の7割は日本──日米の危機を生んだ「秘密工作活動」と統一教会

2022年07月25日(月)12時37分
サンクチュアリ教会,文亨進

サンクチュアリ教会の文亨進(左)は銃文化を熱烈に支持(2018年) EDUARDO MUNOZ-REUTERS

<KCIAとアメリカが後ろ盾となった、旧統一教会。そこから派生した「サンクチュアリ教会」はトランプと銃所持を熱烈に支持するなど、今やコントロール不能で、アメリカ社会にも刃向かうという皮肉>

※正確を期すため文章中の表現を一部改めました(2022年7月28日午前10時47分)。

安倍晋三元首相の銃撃事件で逮捕された山上徹也容疑者のゆがんだ心理を読み解こうとすると、アメリカと日本の民主主義および個人の自由に深刻な脅威を及ぼすアメリカ社会の暗部に行き着く。

山上は、母親が旧統一教会(現在は「世界平和統一家庭連合」に改称)に寄付を続けたために一家が経済的に破綻したことを恨んでいて、安倍が同教団を支援してきたと考えて犯行に及んだとしている。

実は、山上が語った犯行動機と、昨年1月6日に米連邦議会議事堂襲撃事件を起こしたトランプ支持派が抱く社会への不満、アメリカのリバタリアニズム(自由意思論)と狂信的な銃文化、アメリカに拠点を置く旧統一教会の分派「世界平和統一聖殿」(サンクチュアリ教会)の間には、ある意味で奇怪な結び付きがある。

CIAの分析によると、文鮮明(ムン・ソンミョン)を開祖とする旧統一教会は、朴正煕(パク・チョンヒ)政権で韓国の情報機関KCIAのトップを務めた金鍾泌(キム・ジョンピル)が政権の「政治的道具」として利用したとされている。

旧統一教会は1954年の設立後程なく、活動の舞台を日本に拡大した。日本は韓国にとって戦略上極めて重要な国だった。旧統一教会は日本社会への浸透に目覚ましい成功を収めた。何十年にもわたり、教団の収益の7割を日本での収益が占めていたほどだ。

1959年以降は、アメリカへの進出も開始した。アメリカも韓国にとって戦略上極めて重要な国である。旧統一教会は、アメリカでも大きな成功を収めた。首都ワシントンの2大日刊紙の1つであるワシントン・タイムズを所有し、編集方針を決めている。同紙は超保守的・反共的な報道姿勢で知られている新聞である。

安倍は昨年秋、旧統一教会関連団体のイベントに、故・文鮮明の妻・韓鶴子(ハン・ハクチャ)を称賛する退屈なビデオメッセージを送っていたが、同じイベントで、アメリカのトランプ前大統領もビデオメッセージを寄せていた。

旧統一教会は当初、主に韓国内で反共主義と朴政権支持の活動を展開していた。韓国のKCIAが関係する彼らがその後日本とアメリカで展開した活動は、情報機関の世界で言うところの秘密工作活動として始まったとみられる。この種の活動は、対象国の社会や政府の亀裂を利用する。人々の不満や恐怖、希望、政府機関や官僚の弱みに付け込むのだ。

秘密工作活動は、しばしば思いがけない結果をもたらす。情報機関は、自らがつくった組織をコントロールできなくなることも珍しくない。サンクチュアリ教会はその典型と言えるかもしれない。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防

ワールド

アングル:トランプ氏のカナダ併合発言は「陽動作戦」
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story