日本人の安全保障意識を変えた首相......安倍が残した真のレガシー
安倍が日本の安全保障政策にもたらした変化としては、海上自衛隊のいずも型護衛艦にF35Bステルス戦闘機を搭載できるようにしたことも無視できない。これにより、いずも型護衛艦の「空母化」が実現し、日本は第2次大戦後初めて潜在的な攻撃能力を手にしたことになる。
「アイアン・フィスト2020」の実施と「いずも」の空母化は、安倍が後世に残したレガシー(遺産)だ。
この10年ほど中国が対外的に強硬姿勢を強める一方、トランプ政権下のアメリカは、アジアの安全保障に関わることに消極的になり始めている。こうした点を考えると、政治家人生を通じて日本の防衛力強化をひたすら目指してきた安倍には、先見の明があったのかもしれない。
これまで安倍は、段階的にゆっくりと時間をかけて日本の安全保障政策を転換させてきた。そのスピードの遅さを批判する論者もいる。
しかし、そのような論者が見落としている点がある。国民に新しい政策を受け入れさせるためには、リーダーが少しずつ国民の認識と思考を変えていく必要があるのだ。国民が信奉している規範を大きく踏み越えた政策は、たいてい拒絶されるからだ。
その点、安倍はゆっくりと日本の政治文化を変えてきた。その結果、国民は次第に、日本が国際関係で積極的な役割を担うことを容認し始めた。
国民の意識を変えさせた
安倍は、日本の安全保障上の能力を高めるだけでなく、安全保障と外交に関わる基本理念と法的枠組みも変えようとしてきた。
日本国憲法第9条そのものは今日に至るまで変更されていないが、安倍政権下で2013年に国家安全保障会議(「日本版NSC」)が創設され、2015年には「平和安全法制」が成立して、日本の安全保障の在り方は大きく変わった。この2つの措置により、本稿で述べてきたような行動が可能になったほか、日本が実効性ある「武力行使」を行える局面が拡大したのだ。
安倍は、2度目の政権でリーダーシップの重要な原則を学んだように見える。リーダーが成果を上げるためには、いつ先頭に立って牽引し、いつみんなと一緒に行動し、いつほかの人たちの後ろからついていくべきかを心得ていなくてはならない。
その点、安倍は、国益をどのように守るべきかについて日本国民の考え方をゆっくりと変容させ、国民が容認する安全保障政策の範囲を押し広げ続けてきた。
日本の安全保障政策を段階的に、しかし着実に大きく転換させてきたこと。それが安倍の置き土産だ。これにより、急速に厳しさを増す国際環境への日本の対応力が高まったことは間違いない。
それでも、今後日本が直面する安全保障上の試練に対応する上では十分でない。いや、いま直面している試練に対応するのにもまだ足りないのが現実だ。
<2020年9月8日号掲載>
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