香港デモへの頑なな強硬姿勢は、むしろ中国の共産党体制を危うくしている
政治的自由を求めて「人間の鎖」をつくる香港の人々(8月23日) KAI PFAFFENBACHーREUTERS
<新疆やチベットに飛び火することを恐れる中国政府が譲歩することは考えにくいが......>
いま香港で起きているデモは、香港の未来だけでなく、中国共産党政権の未来も左右する──この点では、私の認識と中国政府の認識は一致しているように見える。
香港と中国の未来は、習近平国家主席の歴史観とリーダーシップ観に懸かっている。共産党政権を築いた毛沢東は建前上、儒教文化の因習を取り除くことに努めた。しかしその半面、毛は中国の儒教的専制政治の伝統にのっとって国を治めた。その考え方の下では、権威に反抗することは社会と政治の調和を乱す行為として否定される。習も同様だ。
いま習が恐れているのは、もし香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官がデモ隊の要求に屈すれば、国内のほかの地域にも危機が飛び火しかねないということだ。
抗議活動の発端になった逃亡犯条例改正案を撤回し、司法の独立と民主的制度の存続を受け入れれば、新疆ウイグル自治区やチベット自治区などでも自治拡大を求める声が強まる可能性がある。共産党の支配体制そのものにひびが入らないとも限らない。
中国共産党はこれまで、国民を経済的に豊かにし、排外主義的ナショナリズムをあおり、問題の責任を外国勢力に押し付けるという3つの手法を組み合わせることにより、国民の支持を固めてきた。
林鄭が今回取った行動は、このパターンどおりだ。香港政府は先頃、24 億ドルの景気対策を発表する一方、デモが長引けば香港経済に甚大な経済的打撃が生じると警告した。
習近平が直面する袋小路
同様に、中国のプロパガンダ機関が「外国分子」を非難しているのも意外ではない。具体的には、アメリカのCIAと旧宗主国のイギリスがデモの背後にいると主張している。中国政府は、30年前の天安門事件のときもCIAが民主派をたきつけたと批判し、その後も事あるごとにCIAを非難してきた。
ばかげた主張だが、多くの国民はそれを真実だと思い込むものだ。少なくとも、中国政府に批判の矛先が向かないようにするには役立つ。これは、CIA流の表現で言えば、「何も認めず、全てを否定し、反論する」という手法に当たる。
もっとも、今日の香港市民は本当のことを知っている。市民の大半はデモの継続を支持し、過半数はデモ隊がもっと強硬な姿勢で臨むべきだと考えている。これまでのところ香港市民は、司法の独立と政治的自由を経済的損得より重視している。
今後、習はどのような行動を取るのか。実はあまり好ましい選択肢がない。デモ隊の要求を受け入れれば、国内のほかの地域で同様の要求に火を付けかねない。しかし、弾圧に踏み切れば、香港と中国の経済に深刻な打撃が及ぶ。中国のエリート層が香港に多大な投資をしていることも忘れるわけにいかない。
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