レイプ未遂告発で米最高裁の判事任命が大もめする理由
キャバノーが判事になれば、米最高裁は「保守の牙城」と化す JOSHUA ROBERTS-REUTERS
<判事候補キャバノーにレイプ未遂で告発が......保守派判事が多数を占めれば米社会は大きく右旋回する>
ドナルド・トランプ米大統領が米連邦最高裁判所判事に指名したブレット・キャバノー(53)は筋金入りの保守派だ。アメリカでは最高裁判事の任命には上院の承認が必要なため、上院司法委員会は9月初めに公聴会を開催。民主党はあの手この手で早期承認を阻止しようとしたが、この時点では指名承認はほぼ確実な形勢だった。
キャバノーが正式に任命されれば、最高裁判事9人のうち5人を保守派が占めることになる。つまり、人工妊娠中絶を禁止する法律(1973年の最高裁判決で違憲とされた)が復活し、保守派に有利な現在の選挙区の区割りを改正する望みも断たれる可能性があるということだ。
しかし歴史は時として気まぐれだ。ある時代の全ての軋轢と重みが、それまで無名だった1人の市民にのしかかり、その人の決断がその後何十年も無数の人々の生活に決定的な影響を及ぼす――そんな予想外の展開も起こり得る。
共和党が多数を占める上院がキャバノーの指名を承認するのは時間の問題。誰もがそう思っていたときに、上院司法委員会の民主党のリーダーが待ったをかけた。歴史が選んだ主役は、カリフォルニア州在住の51歳の大学教授クリスティーン・フォードだった。
フォードはキャバノーにレイプされそうになったことがあると訴えた。36年前、2人とも高校生だったときのことだ。言うまでもなく共和党はこの告発を民主党の「土壇場でのあがき」と決め付けた。文句なしに判事にふさわしい人物を陥れるための、文字どおり信じ難い言い掛かりだというのだ。
憲法を中心にまとまる国
だが、フォードの訴えは土壇場で出されたものではない。彼女は何カ月も前に民主党の女性議員にキャバノーに性的暴行を受けたと伝えていた。この時点では、キャバノーは指名を有力視される何人かの候補の1人にすぎなかった。しかも彼女は、最高裁判事候補としてキャバノーの名前が浮上するより6年以上も前にカウンセラーに事件のことを打ち明けており、カウンセラーが書いた面談記録も証拠として提出している。
さらに決定的な証拠がある。高校時代からのキャバノーの親友の1人が何年か前に出した著書にフォードの証言と酷似した事件が登場し、事件を起こしたのは「キャバノー」という名の友人だとはっきり書いてある。
歴史はフォードを土壇場で登場させたかもしれないが、彼女の証言は虚偽とは思えない。
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