対北朝鮮トランプ外交の見せ掛けの「勝利」
北朝鮮に解放されたアメリカ人3人を出迎えたトランプ(5月10日、メリーランド) Jim Bourg-REUTERS
<朝鮮半島「非核化」+在韓米軍削減の取引(ディール)は、長期的にはアメリカの戦略的地位を低下させるだけ>
もし私が北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長なら、自国と同様にアメリカににらまれたイランとリビアの現状、そしてドナルド・トランプ米大統領の言葉に注目する。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領との南北首脳会談の後、トランプとの米朝首脳会談を控えた今は、これまで以上に核兵器とICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発計画に固執するはずだ。
もし私がトランプなら、金と文も朝鮮半島の核・ミサイル問題も自分が主人公の終わりなきメロドラマの小道具と見なし、どうやって見ばえをよくするかを考える。
ある意味で私は、この問題を近代の建築思想と逆の視点から捉えている。「形式は機能に従う」ではなく、「機能は形式に従う」という見方だ。
だから奇妙に聞こえるかもしれないが、挑発的でとっぴに見える「ならず者国家」の若い指導者と、気まぐれで無知なうわべだけの「自由世界のリーダー」との会談は、全当事者に受け入れ可能な形式の(内容も多少はある)取引が成立する可能性が極めて高いと考える。
5月3日には、トランプが在韓米軍の削減を検討するよう指示したという報道が流れた(本人は翌日に否定したが)。金正恩は朝鮮半島全体の非核化を目指す意思を表明し、平和的で理性的な一面を強調する外交戦術を展開している。ここで言う「非核化」の中身が、北朝鮮とトランプの間で異なっていても問題はない。
トランプは米朝首脳会談から是が非でも「勝利」を持ち帰りたい。政治的な「勝利」が欲しいのは韓国の文も同じだ。金も経済的・政治的圧力の緩和と、米軍の軍事行動のリスク軽減という「勝利」を求めている。
事態の悪化と朝鮮半島のさらなる混乱を恐れる中国も、この3人の「勝利」を望んでいる。日本の安倍晋三首相に必要な「勝利」は、台頭する中国の攻勢と北朝鮮という危険な存在に直面する日本をアメリカが見捨てないことだ。
変化の多くは「形式」だけ
では、ここで言う「勝利」とはそもそもどういう意味なのか。「機能は形式に従う」という表現と同じように、首脳会談における外交上の「勝利」とは、それぞれの当事者にとって意味が異なるものであり、各当事者が喧伝する内容以上に「形を整える」という側面が大きい。
北朝鮮は予想どおり非核化を約束するが、このプロセスを何年も引き延ばすだろう。アメリカは北朝鮮側の「コミットメント」と引き換えに在韓米軍の規模縮小を約束するが、短期的には象徴的なポーズにとどまる。米軍削減のプロセスも北朝鮮の非核化と同様に引き延ばされ、おそらく尻すぼみに終わる。
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