コラム

北朝鮮「スリーパー・セル」を恐れる必要はない

2018年02月20日(火)17時15分

ロシアの美人スリーパー

通常、スリーパーはターゲット国で、与えられた任務に近い分野の仕事を得ようとする。そして、一見したところ愛国的な市民という隠れみのを作り、その国の国家安全保障関係者に取り入り、政府の「計画や意向」に関する情報を引き出す。

スリーパーがターゲット国で就く仕事と、本国から与えられた任務が全く異分野の場合もある。例えば自動車修理工場で働いているけれど、最終的な任務はほかのスパイの脱出作戦を実行することかもしれない。

最近の有名なスリーパーとしては、10年にアメリカで逮捕されたロシアの「美し過ぎるスパイ」アンナ・チャップマンがいる。彼女の任務は、欧米諸国の男と結婚して、姓を変えて、アメリカに移住して、普通の生活を送りつつ、世界の金融の中枢に入り込むことだった。

だから彼女は、アレックス・チャップマンというイギリス人と結婚して、姓を変え(旧姓はクシュチェンコ)、イギリスの市民権を取得し、離婚して、アメリカに移住した。そしてニューヨークの金融業界でばりばり働き、貴重な情報を与えてくれそうな男がいれば、自分の体を差し出して手に入れた。

チャップマン逮捕後にロシア側の関係者が明らかにしたところによると、チャップマンはオバマ政権高官をたぶらかし、アメリカの外交情報を手に入れようとしていた。

「もし」を重ねる危険性

日本に潜伏する北朝鮮のスリーパーは、もっと恐ろしい任務を与えられているという。その主張に裏付けはないが、北朝鮮による拉致問題や、外国での殺人や韓国への攻撃が、その主張にもっともらしさを与えている。

だが実際には、スリーパーはターゲット国に長期間滞在し、その社会と文化に深く組み込まれてしまうため、いざ作戦開始の指令が出ても「普通の生活」を続けたがることがよくある。

また、カウンターインテリジェンス(防諜)に従事する者は、複数の「もし」をつなげて考える危険性を忘れてはならない。「もしXが事実なら、Yも事実かもしれない。そしてYが事実なら、Zも事実かもしれない。そして......」というわけだ。こうした思考プロセスはよくあるもので、本来なら信じ難いこと、つまりスリーパー・セルが動き出して国家を脅かすというとっぴな脅威が、目前に迫っているように感じられてしまう。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

関税の影響を懸念、ハードデータなお堅調も=シカゴ連

ビジネス

マネタリーベース、3月は前年比3.1%減 7カ月連

ビジネス

EU、VWなど十数社に計4.95億ドルの罰金 車両

ビジネス

米自動車販売、第1四半期は増加 トランプ関税控えS
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story